TVも「インテル入ってる?」の時代に?

昨日から開催されている、インテルデベロッパー・フォーラム(Intel Developer Forum:IDF)で、インテルYahoo!が組み、TVでもインターネットを楽しめるようにすると発表された。

テクノロジー : 日経電子版

すでに、Panasonicが今年1月に発表したビエラキャストなど、TVメーカー個別の取り組みが始まっていたところにIntel+Yahoo!のコンビが殴り込みをかけた格好だ。

インテルが専用の半導体をTVメーカーに供給し、Yahoo!がTV向けのコンテンツを供給する、ということだが、特に日本などのハードの開発力が高いTVメーカーにとっては、今後悩ましい事態となるかもしれない。

(弱ったとはいえ)Yahoo!のもつブランド知名度とコンテンツがあり、それに最適化されたTV用チップをインテルが作る、という構図は、どこかで見覚えがある。つい先日まで続いていた、マイクロソフトがシェアと知名度を誇るWindowsをPCメーカーに供給し、それにふさわしいチップをインテルが供給するという、いわゆるウインテルWintel)にそっくりではないだろうか。

そうなったときに、TVメーカーがどのような立場におかれるかは、ウインテルの図式の中でPCメーカーがどのような姿になったかを考えればよい。すでにPCでの先例があるのだから、それを失敗と思うなら、同じ過ちを繰り返さない戦略を練っておく必要がある。簡単に総括するなら、人気のあるOS=Windowsに最適化されたインテルのチップを買い、いかに早く安く組み立てられるかがPCメーカー競争の勝者を決めた、ということだろう。そういうなかで、NECの98シリーズなどが市場から消えていった。放っておけば、同じことがTVでも起きる可能性は、少なくても起きない可能性よりも高いと思う。

もっとも、TVの場合は単に部品を組み立てればよいのではなく、画質の善し悪しが決め手なのだからPCの場合ほど簡単には負けない、という考え方もできなくはない。ただ、そうなのだとしたら、日本のTVメーカーの世界でのシェアはもっと高くていいはずだし、画質がそれほどよくないと思われる無名ないしそれに近いメーカーのTV が(特に海外で)売れているという事実を説明できない。また、あのSONYでさえ液晶パネル自体は事実上韓国のSAMSUNGから調達しているのであり、その意味では高画質=日本製という単純な図式は成り立たず、韓国などのメーカーの実力も既に互角と考えておかなければならない。

同時に、日本の一般紙の記事ではあまり触れられていなかったが、モバイルインターネットデバイス(MID)向けの新しいチップのこともIDFで触れられている。

http://www.computerworld.com/action/article.do?command=viewArticleBasic&articleId=9113100&intsrc=hm_list

http://www.computerworld.jp/topics/mp/119209.html

TVとMIDの2つの動きの関連性については記事では特にコメントされていなかったが、私の推測(憶測)するところでは、インテルはTVだけでなく、MIDやスマートフォン(ケータイ)でもシームレスにYahoo!のコンテンツを楽しめるような仕組みをチップに埋め込むことを密かに狙っているのかもしれない。

アップルはすでに、今年の1月に発表したiTunesムービーレンタルにおいて、レンタルした映画を視聴するデバイスを、TVとiPhoneiPodとの間で自由にスイッチできるサービスを提供しはじめている。前半をTVで見ていた映画を、外出するので途中からiPhoneで見る、という使い方が可能だ。これと同じように、インテルは自社製チップの入ったTVとMIDやスマートフォンをスムーズに連携させる戦略を採ろうとしている、と推測するのは、PCの時のインテル(+マイクロソフト)とアップルとの競争を考えれば、素直な推論ではないかと思う。

アップルの場合はTV自体には手を出さずに、TVのセットトップボックスであるAppleTVを使ってTVへのアプローチを開始している。一方、インテルはTV自体に自社チップを埋め込むことをもくろんでいるという違いはあるものの、TVと、MID含めた広義の携帯電話の両方を押さえにかかっているという点で、共通の目標があり、それに向かって走り出したのではないか、という気がしてならない。

パソコンで、「WIndowsインテルVSアップル」の競争軸があったように、TVでも「Yahoo!インテルVSアップル」、さらにはTVだけでなくMIDやiPhoneのようなスマートフォンの分野でも「Yahoo!インテルVSアップル」という軸が生まれるのかもしれない。もっとも、アップルは自社のMacに最近はインテル製チップを採用しているので、上記の仮説が正しいなら、この微妙な競争と共存の関係も今後を占うポイントになるかとも思う。

そのような世界の趨勢にあって、日本のTVメーカーやケータイメーカーは、自社のポジションをどこに取ろうとするのか。「ウィンテル」時代のパソコンメーカーの状況をトレースしてシミュレーションをしておかないと、IBMThinkPadブランドを中国メーカーに売り渡したような事態が、TVやケータイの分野でも10年後に起きることになるかもしれない。

少なくても、薄型TV競争の主軸は、これまでよく言われてきたような「液晶かプラズマか有機ELか」にある時代は終わり、TVに乗ってくるコンテンツとチップでどう主導権を握るか、主導権は握れなくても独自のポジションをどう築くか、に移ったと見るべきだろう。