日本の端末メーカー・会社の舵をとるのは誰か

2ヶ月ほど前のエントリーが、なぜか爆発的なアクセスを頂いている。おそらく、はてなダイアリーのトップページに注目の記事として紹介していただいたからなのだと思う。

そのエントリーの内容とも関連するのだが、たまたま、元ドコモの夏野氏のコラムを見かけた。

日本の企業が世界の携帯産業で伍していくためには、さまざまな課題が山積みしているが、この解決はそんなに難しくない。何しろ日本メーカーは、最も得るのが困難な「技術的競争力」という要素をすでに持っているのだ。


 あとはマネジメントが強い意志を持って過去の延長線上の経営から脱却し、積極的に外国人を採用したり、ブランドに対する投資をしたり、新しいマーケティング手法や権限委譲を徹底したりしていけば、まだまだチャンスがある。

テクノロジー : 日経電子版

この意見には、私もまったく賛成だ。賛成だが、おそらく書いている夏野氏自身も感じているのではないかと思うが、引用の2段落目が、日本の企業の弱いところ、つまり我々日本人が苦手なことだ。この夏野氏のコラムでも引き合いに出されているが、なぜ韓国のSAMSUNGやLGにできて、日本企業には出来ないのだろうか。

これについて思い起こすのは、少し前のものだが、携帯電話業界ということではなく、日本のメーカー一般について書かれた下記のコラムである。

著者であり上司でもあった日経エレクトロニクス編集長(当時)の西村吉雄氏に話をうかがったことがある。そのとき彼が大きな問題だと指摘したのは、東大をはじめとした「難関校」の学生で、全体より顕著に製造業離れが進んでいることである。
(中略)
そして、それより深刻なのは文系の製造業離れかもしれないと漏らしておられた。
どんなに給料に格差があっても、「理系に進んだからにはメーカーに行きたい」という人は相当数残るだろう。けれど、たとえば営業職を希望する人が、給料が高い金融とか商社とかを除けて、わざわざ給料の安いメーカーを志望するだろうか。西村氏の考えは「否」だった。この結果として、メーカーの経営部門を含む非技術系部門が、技術系部門を上回る勢いで弱体化していくのではないかと懸念していたのである。
(中略)
技術系部門は優秀でパワフルだけど、マーケティングや製品企画、宣伝広告、営業、そして投資の規模や時期を判断する経営部門などの非技術系部門がどうも弱い。だから利益を上げられないのではないか。そうだとすれば、西村氏の懸念は20年を経て深刻な現実となったことになる。

なぜなら、給料が安いから(7ページ目) | 日経 xTECH(クロステック)

ここに書かれていることが本当にそうなのかどうか、私には分からない。確かに一般的にみて、日本の製造業の賃金は金融や商社などの業種に比べて低い。一方、SAMSUNGやLGなどの社員、特に海外に駐在するような優秀な社員には高額の給料が支払われている、という話は聞くことがある(真偽のほどはさだかではないが)。

だが、本当に賃金だけが就職の選択の決め手となってきたのかどうか。またメーカーの場合、目に見えない形で支払われる給料、すなわち、サービス業一般と比較した場合に充実した福利厚生があり、”労働時間あたりの可処分所得”という点で考えれば、よくある賃金調査などで現れる数字ほど、メーカーの給料は悪くないはずだと思う。*1必ずしも給料だけの問題ではない気がするのだ。

では、ほかに何が問題なのか。このコラムでは触れられていない点として、製造業が、商社など第3次産業・広義のサービス業に対して”虚業”であるとして見下してきた、ということがあるのではないか、というのが私の仮説である。そういう意識があった(ある)とすれば、メーカー内での非技術系社員に対しても、社内ながらそうした視線が向けられてきた、ということにはならないだろうか。

そのような環境では、技術と車の両輪である非技術系のスキル、つまり(ユーザーオリエンテッドな)商品開発や、営業・マーケティング、そして経営の能力は正当に評価されないから高まらず、またそういう非技術系社員が出世して、会社にとって重要なポストを(技術系社員とともに)占める、ということにもなりにくくはないだろうか。

残念ながら、私にはメーカ−に勤務した経験がないので、こうした事情が実際のところどうなのか、ということについての肌感覚がない。認識に間違いがあればご指摘いただきたいと思う。

ただ、紹介した2つのコラムをあわせ読んで導かれる処方箋は、技術を理解しながらも軸足のスキルを経営やマーケティング・商品開発などに置いた人財を、経営層、つまりはメーカの役員クラスに登用していく必要がある、ということだ。そういう人財を自社で育成してこれなかったのであれば、外部から迎えるといった判断も必要になってくるのだろう。夏野氏も指摘している通り、やるなら今、であり、残された猶予は長くはない。

*1:例えば、社宅制度があるメーカーなら、仮に月の家賃相当額が15万円だとすれば年間180万円を目に見えない給料として受け取っていることになるし、そのうえその分は所得税の対象にもならないのであるから、さらに被雇用者にとって有利である。