Googleがケータイ絵文字の標準化に取り組むワケ
日本のキャリアやメーカーが手をこまねいているうちに、Googleが公式ブログで、日本のケータイ絵文字のユニコード化に取り組むことを表明した。
Google Japan Blog: 絵文字のユニコード符号化: 符号化提案用のオープンソースデータ
(小さな)利害が絡んで身動きが取れない日本のプレーヤーを尻目に、こうした動きからは一見中立な立場にあるGoogleが、先頭に立って旗を振ったように見える。
しかし、Googleには、ちゃんと絵文字に取り組むことに、企業としてのメリットがあるはずだ。上記のブログで、
検索エンジンで絵文字を探せば、結果が返ってくること。こういうサービスを実際にうまく動作させるには、絵文字がユニコードとして標準化されることが必要になります。
と、さりげなく書かれているように、Googleにしてみれば絵文字も検索対象に取り込むという意図がある。これは分かりやすい理由だろう。
しかし、ブログには書かれていない、より深い意図があるはずだと思う。それは、携帯電話市場でのGoogleの地位を、より強固なものとすることではないだろうか。そのための取り組みの一つに、絵文字のユニコード化の推進があるような気がする。
既にGoogleはGmailを絵文字に対応させた。また、Googleが提供する携帯電話用のOS、Androidを搭載した端末が、今年の米国デビューを皮切りに、来年にかけて欧米各国、そして日本も含めてアジアの国々でも続々と発売されていく可能性が高い。こうして、自社が音頭をとって絵文字をユニコード化し、それに100%対応したメール環境と検索環境を、PCのwebに限らず、携帯電話端末でもそれを実現できれば、Googleのビジネスにとって大きなメリットがあるはずだ。ユニコード化を推進する上で、同時並行で検索エンジンを絵文字に最適化させることを進めておけば、他の検索エンジンに対するアドバンテージを得られる。これは、Androidの絵文字に対応したアップデートを開発することについても同様だろう。
ケータイ絵文字の”本家”である日本の関係者のうち、残念ながらキャリアは、海外キャリアを買収して傘下に置くといった戦略でもない限り、ユニコード化を推進することのメリットは見いだしにくいだろう。
一方、日本の端末メーカーは、海外でも端末を販売するのであれば、ユニコード化に関わっていくことのメリットを得られる可能性があり、この流れに積極的に乗っていくべきだろう。ユーザーがどのように絵文字を使っているのか、リアルに把握できているのは、世界の中でも日本市場において端末を供給しているメーカーだけしかないはずだからだ。絵文字がユニコード化されるのであれば、そのアドバンテージを活かした端末作りをしていくメリットがあるはずだし、Googleが本気で取り組むのであれば、絵文字のユニコード化は、達成される可能性が高いと見るべきではないだろうか。そうであるなら、ユニコード化される過程にも、自社(および、大げさにいえば自国)にメリットがあるような形で標準化されるように、日本のプレーヤーが口を出していくべきだと思う。
こうした標準化の動きに先行する形で、iPhoneは先週公開されたOS2.2において、ソフトバンクの働きかけに応じた絵文字に対応した。
Update your iPhone, iPad, or iPod touch - Apple Support
標準ではSMSとメールの一部でしか絵文字の入力ができないが、連絡先に絵文字を登録する等の方法で、他のアプリでも絵文字の入力をすることが事実上可能である。実際に、Twinkleをはじめとして、iPhoneユーザーが様々な場面で絵文字混じりの文章を、日本語に限らず書いている。こうした絵文字は、おそらく日本語以外のiPhoneユーザーでも、OSを2.2にしていれば表示されているものと考えられる。*1
また、言語環境を日本語に設定していないiPhoneで、絵文字を使う方法について紹介しているブログ等も、すでに複数見受けられる。*2こうしたことからも、海外でも絵文字に対して関心を寄せているユーザーがいることが伺える。
標準化の動きとは別に、こうしてリアルに絵文字に接する海外のユーザーが出てきていることは、標準化後の絵文字ユーザーを広げる土壌作りになっていくだろうと思う。いくら標準化が達成されても、それを使おうという人がいなければ何の意味もない。標準化の動きから見ればフライング的に見えるiPhoneの絵文字対応も、実は標準化実現後の普及のことを考えると、潜在的な絵文字ユーザーを育てておく点で、非常に大きな意味合いがあるといえるだろう。
以前のエントリーに書いた”ユニバーサル絵文字”の実現に向けて、最初の一歩を踏み出したのが日本の企業や団体ではなくGoogleであったことはちょっと残念に思うが、大切なのは、これからの標準化のプロセスにどれだけ実効的に関わっていけるか、だろう。特に、日本の端末メーカーが戦略的に取り組んでいくことに、将来の利益にもつながるメリットがあるように思うのだが、どうだろうか。