Android Dev Phone1 を試用する(2)アメリカで使ってみた

前回の稿で書いたように、Android Dev Phone1(以下ADP1)に一通りの設定をし、使い方もある程度分かったので、ちょうどアメリカに行く機会があった時に現地のSIMカードを購入し、実際にAndroid携帯電話としてその機能をフルに試してみることにした。

旅行者としては、日本の携帯電話をローミングで使うよりも現地のSIMを購入して使った方が安いし、現地のSIMはプリペイドのものを入手して残額が足りなくなるたびにチャージして使う方が、契約も簡単だし使い勝手がよい。日本だと、日本人(日本在住者)でプリペイドの携帯電話を使っている人は少ないしキャリアが提供するプリペイドサービスも限定的だが、海外の場合、特に若年層や中程度以下の所得者層だと、在住者でもプリペイドの契約が広く利用されている国は少なくないようだ。クレジットカードがなくても、スーパーなどでチャージのカードを購入するだけで手持ちの現金に応じた利用が可能になるし、携帯電話にかける費用を管理しやすいところも、広く利用される理由になっているらしい。

今回は、アメリカにあるいくつかの携帯電話会社のうち、at&tプリペイドSIMカードを選択した。アメリカで、このADP1の商用機版であるG1を扱っているのはT‐mobileUSAなので、本当はそこを選択すれば、データ通信を使うための設定に必要なAPN情報も最初からADP1本体に登録されているので簡単である。しかし、webで調べたところ、どうもT‐mobileUSAのプリペイドSIMカードではデータ通信が出来ないらしく、通話だけではADP1を試用する意味がほとんどないので、プリペイドでもデータ通信可能という情報があったat&tのものを選んだ。このプリペイドサービスは”go phone"という名称でサービスされており、サイトで詳細が確認できる。*1

このgo phone、私が利用した2009年1月現在で、データ通信の料金は従量制で1KB=1セント、"MEdia Net Package"という割引サービスを使うと、4.99ドルの前払いで1MBまで(1KBあたり約0.5セント)、9.99ドルの前払いで5MBまで(1KBあたり約0.2セント)と、比較的安い料金で利用できた。データ通信を使うのであればMEdia Net Packageを購入するとよいだろう。


at&tショップの例(SIMを購入した店舗とは別の店)

SIMの購入は簡単で、at&tショップの店頭に行って、氏名と暗証番号を店員に伝えるだけだった。初回のチャージ最低額である50ドルと、MEdia Net Package 5MBの9.99ドルを購入。通話のオプションで、一律1分25セントのシンプルレートか、通話した日には1日1ドル課金されるが1分10セントかつat&tの携帯同士であれば無料になるプランかをえらぶ。今回は前者を選んだ。これで90日間はチャージしなくても同じ番号で使いつづけられる。*2


at&t go phoneのSIMカード

ただポンとSIMだけを渡されるのだろうと思っていたのだが、私を担当してくれたショップスタッフは、端末を設定するから貸せ、と言ってきたので、お願いしてみることにした。長い時間をかけてあれこれトライしてくれたが、結局通話は出来るもののデータ通信が出来るようにはならなかった。”この機種のことはわらかないよ。”と言っていたが、当然といえば当然のことだろう。最後は、YoutubeにあがっていたG1のアクティベーションの動画まで参考にして試してくれたものの、それも失敗。

仕方なくショップをあとにしたが、ひょっとして、と思い、あらかじめ日本出発前にiPhoneスクリーンショットを撮っておいたat&tのAPNの情報に”大文字小文字に注意”と書いてあることを確認、パスワードを大文字で入れたところ、無事にデータ通信も使えるようになった。

そのようなわけで、SIMを購入してAPNを正しく設定するまでは若干面倒があるかもしれないが*3、そこをクリアすれば非常に快適に使える。

今回のアメリカ行きでは、いくつかの展示会を見て歩くことが目的のひとつだったが、ADP1で使えるTwitterクライアントソフトをあらかじめ入れておいたので、リアルタイムの情報もTwitterでフォローし、またCESではスマートフォン向けに展示会場ガイドのソフトが提供されていたのでそれをインストールして広い会場のお目当ての出展社を探したり、GPSとMapを使って現在地と行き先までの経路を確認したりなど、試用のつもりであったが、ADP1をきわめて実用的に使うことが出来た。

通話だけでなくデータ通信を使った場合でも、利用するごとに利用料金の通知が来てディスプレイに表示される。MEdia Net Packageを使いきらないうちは利用料はゼロと通知されるから、料金が表示されはじめたらMEdia Net Packageを追加購入*4すればよいので、これも便利なサービスだと思った。

メールをはじめとしたテキスト中心のデータ通信であれば、思ったよりも利用料金はかからないという印象だ。今回約1週間の滞在で、MEdia Net Packageの5MBを2回、1MBを1回購入、通話に使ったのはおそらく10ドルにも満たない。MEdia Net Packageを使いきったあと、最後に20ドル弱の基本のチャージが残ったので、これでGoogleストリートビューを試した。

ADP1には、iPhoneにはないハードの機能としてコンパスが搭載されており、これをストリートビューと連動させて使うことが出来る。GPSで自分の現在地を確かめたあと、ストリートビューをコンパスモードで使うと、自分の前の前にある風景とADP1の画面の中にある映像がシンクロするという、ちょっと不思議な体験をすることが出来る。体の向きを変えれば、ADP1のコンパスが反応して画面の風景も同じように変わる。

この機能をうまく活用できれば、かなり方向音痴の人でも、自分が次にどちらに歩いていけばよいか判断することが出来るだろう。また、コンパスのあるなしにかかわらず、また方向音痴かどうかにもよらず、ストリートビューによって行き先のビルの色や形などを事前に確認することが出来るのは、不慣れな旅行者が街歩きをするうえで、どれほど役に立つかを、痛切に感じた。

日本の世論(マスコミが作り出す世論)では、ストリートビューをプライバシー侵害の問題とからめて一方的に批判することが”流行っている”ようだが、こうした使い方があることを知ってもなお、批判するだけに終始するのだろうか。そもそも、自分の見知った場所を見ることは、ストリートビューの発案者が想定するであろう使い方のごく限定的な局面、むしろどちらかというと、想定していないに近い使い方ではないだろうかと思う。知らない場所を予め知っておける、あるいはその場で知ることができることにこそストリートビューの真価があるのであって、そこに洗濯物が干してあるかどうかなど、その意味で”予め想定された”利用者にとっては、どうでもよいことだし、表札が写って困るなら、そもそもどうして表札を掲げるのかも理解できない。

もちろん、言われるようなプライバシーの問題があることを否定はしないが、表層的・一方的な判断をするだけではなく、ストリートビューが実現したプラスの側面も加味した上で是非が議論されることを切望したい。

余談が長くなった。

ストリートビューを試してはじめてほどなく、あっという間にチャージ残額がゼロになった。ストリートビューのような重たいコンテンツは、WiFiが使える場所で利用するのが賢い使い方ということだろう。ただ、プリペイドの良さで、払ってある以上の金額を使う気遣いが要らないこと、簡単に再チャージ出来ることは、旅行者として考えると非常に使い勝手がよい。go phoneのアカウントはwebで簡単に確認・管理できて、その点でもポイントが高い。

メールの送受信やちょっとしたwebアクセス・地図の確認といった用途であれば、それほど値段を気にせずに利用できるし、旅先でのちょっとした調べものに使うには非常に便利だ。下手な紙の旅行ガイドや地図を持ち歩くよりも、ずっとこちらの方が役にたつ。情報が最新かつ多様だし、その場の状況に応じて必要な情報を探せばよいので予定が変更になっても慌てない。むしろ、予定を意図的にずらしてハプニングを楽しもうという気になってくるかもしれない。街角でガイドブックや地図を広げて立ち止まっていれば旅行者と一目瞭然で犯罪のターゲットになる可能性も高いけれど、スマートフォンならそういう心配もない(ただし、スマートフォン自体を狙ったターゲットにはされるかもしれないが)。

稿を改めてiPhoneとの比較でまとめて書こうと思っているが、旅行中に使うということを考えた場合、現状のADP1は、メモ代わりに画面キャプチャを保存しておけないので不便だし、Mapのブックマークがないことも不便だ。こうした点は、オープンソースの強みを活かしてどんどん改善されていくことを期待したいところである。

ADP1の試用がもともとの目的だったのだが、次からの海外旅行では、この端末を現地のSIMカードで使うことを考えることだろう。SIMフリーiPhoneがあればそちらを使うかもしれないが、手元のものはSoftBankのSIMしか使えないので、当面はADP1が”旅行ガイド”端末として活躍することになりそうだ。

このアメリカでの試用経験を踏まえ、次の稿ではiPhoneとADP1(Android)の違いについて考えたこと、感じたことをまとめてみたい。

*1:全米主要都市はほとんどカバーされているが、念のため事前にサービスエリアを確認しておくことをおすすめしたい。余談だが、サービスエリア地図によればハワイ諸島もかなりカバーされているようなので、ハワイ好きな方にも便利に使えるだろう。

*2:50ドルの場合チャージの有効期限は90日だが、15ドルの30日から100ドルの1年まで、チャージ額によって同じ番号を使いつづけられる有効期限が違う。再チャージすれば有効期限が伸び、残額分も期限切れにならずに持ち越せる。また、再チャージが一定額に達するごとにボーナス分の通話代金が上乗せしてチャージされる仕組みもあり、プリペイドユーザーがat&tを使い続けるようなインセンティブも考えられている。

*3:ネットなどにあるAPNの情報は必ずしも最新・正確ではなかったりするので、事前に調べてもっとも確度が高そうな設定情報を入手しておくと現地での時間を無駄にしない。

*4:webで購入しても良いが、ややまどろっこしいものの携帯から611番にダイヤルして完全自動の音声応答サービスで購入すれば、歩きながらでも即時購入できるので便利だった。