本にしますか?kindleにしますか?それともiPhoneにしますか?
先日、地下鉄に乗っていたときに、目の前の初老の男性がニンテンドーDSで本(電子ブック)を読んでいるのを目撃して、ちょっと衝撃を受けた。そういう時代になったのか、と思ったし、かねてiPhoneやそれに類するデバイスで文章を読むことについての可能性を考えていたところだったので、この男性の姿に、電子ブックリーダーの可能性を見た気がしたのだ。
ただ、ここで言う電子ブックリーダーとは、主にiPhoneなどにアプリとして付加されるソフトのことで、ハードとしてのリーダー専用機の将来性については、日本市場に関する限り、私は懐疑的だ。日本メーカーによる電子ブックリーダーは、静かに市場から消えてしまった。ただし一方で、アメリカではAmazonの電子ブックリーダー”Kindle”が好調らしい。
この対照的な動きの理由は、一つにはkindleに通信機能がついていて、日本製の電子ブックリーダーのようにPCやメモリーカードのお世話になる煩わしさなしに本(電子ブック)を手に入れられることと、もうひとつ日米のユーザーの志向のちがい、つまり小さく軽くを志向する日本と、大きくても重くても構わないアメリカとの違いに原因があるのではないかと思うが、ここでは深入りしない。
ではiPhoneで本を読む、という選択についてどうだろうか、と思っていたら、このテーマについて書いている人がいた。
How Apple could make e-books work | Macworld
私も、まだまだ電子ブック、というか、小さな液晶画面で長い文章を読むことには抵抗はあるのだが、
But this dislike of e-books probably exists for the same reason that so many people hated digital music before the iPod and the iTunes Store came along.
と言われてしまうと、なるほどそうかもしれない、と思う。「スケジュール管理には紙の手帳が一番」と思っていた自分が、iPod touch/iPhone+Googleカレンダーにあっという間に鞍替えさせらえてしまったことを思うと、この理由には、頷かざるを得ない部分がある。
画面の大きさが一つのネックかと思ったので、試しにiPhoneと文庫本を比較してみた。
大ざっぱに言って、iPhoneの画面の面積は文庫本1ページの大きさの半分から1/3くらい。写真では青空文庫ビューワーを使って画面に文字を表示させているが、デフォルトでの文字の大きさは、やはり文庫本にくらべて小さく読みにくい。
そこだけ見ると、やっぱりiPhoneで本を読むというのはないかな、という感じはする。
でも、電子ブックならではの表現が生まれるなら、ちょっと違ってくるのかもしれない。本というかマンガのジャンルになるけれど、app storeで無料で手に入れた”ゴルゴ13”を見て、静止画でもなく動画(アニメ)でもないマンガの見せ方の可能性を垣間みた気がしたし、これからマンガを書く人は、電子ブックにふさわしい表現を進化させていく可能性があると思う。
マンガだけでなく、文字だけの小説などでも、電子ブックにふさわしいスタイルというのが生まれる可能性も同様だろう。
また、わざわざ本を持って歩くまでもないにせよ、あれば読みたい、と思うなら、紙の本や電子ブックリーダー専用機より少々使い勝手が落ちても、iPhoneで本を読む、ということもあるかもしれない。
Shopping for new stuff is just so easy. And my trim little Kindle always contains at least two shelves’ worth of books. Whether I’m anticipating a half hour in a burrito joint or a week in Kauai, my reading needs are covered.
という指摘の通り、本を持ち歩くほどではない短い時間の隙間とか、逆にたくさんの本を持っていけないような遠い場所での長い滞在中に、電子ブックは便利だと思う。
本自体を持つことを上回るユーザーベネフィットがなければ、電子ブックリーダーはハードであれソフトであれ受け入れられないのだから、いつでも気が向いたときに(少量であれ、大量であれ)好きなだけの文章が読めるということは、紙の本を上回る便利さをもたらすと思う。すくなくてもiPhoneは、(1)リーダー専用機ではないから余分なものを持ち歩かなくてすむという点と、(2)いつでもネットから簡単にコンテンツを取得できる点で、ユーザーベネフィットを生む下地はあり、あとは(3)どれだけ快適に読めるようにするか、という点だけが課題なのだともいえる。
その点、日本の電子ブックリーダーは(3)の点の技術にばかり力はいれたが、肝心の(1)も(2)もまったく備わっていなかった。
このコラムの筆者も書いているが、
And even better than Apple competing against Amazon: what if the two companies worked together? Let Amazon build and fortify relationships with publishers. Let Apple create the relationships with the consumer. Add a Kindle-compatible reader to the App Store. The result could be a revolution.
これが、アマゾンとアップルの間にとどまらず、本のコンテンツ流通と課金の共通プラットフォームが整い、それを見る環境の互換性が確保され、読むのはiPhoneでもkindleでも、さらにはPSPでもニンテンドーDSでもよい、ということになれば、本当に出版界にとって革命的な出来事になると思う。そうなると本屋さんは、さらに危機的な状況になってしまうかもしれない。
もちろん、リアルの本屋さんにある価値、林信行さんがご自身のブロクに書いていた思いがけない本と出会う価値、
こういう側面は、amazonのおすすめや、Googleの広告では実現できない世界であり、リアルな本屋さんとともに伝統的な広告手法が再び評価される可能性を秘めた領域であると思う。
もちろん、ケータイにはケータイ小説があるように、書くことと読むことがセットになっている場合にはまた違ったスタイルがあるのかもしれないけれど、一般的には”読む量>書く量”であることを考えると、”iPhoneで読む”ことの可能性は十分だし、その可能性がもっと広がっていってほしい。
電子ブックの流通が確保されれば、これまでの紙の本では採算が取れずに日の目を見なかった書籍が出版されることも可能になるだろうし、音楽でいうインディーズのような出版形態も出てきて、読むものの選択肢は広がっていく。