「イヤホンガイド」から「iPhoneガイド」へ(「デザイン物産展ニッポン」で思ったこと)

銀座の松屋で「デザイン物産展ニッポン」が開催されていたので足を運んでみた。(残念ながら9/1までで終了してしまった)

各地ならではの物産を掘り起こすという企画自体、私にとってかなり直球で興味をそそる内容だったが、会場内のガイドをiPhoneiPod touchで行うというのも興味津々というわけで行ってきた。

入場料800円(大人)をとりながら、展示した各地の物産も会場で販売するという試みで、お金を取ってさらに売りつけるのか、と思う人もいるだろうけれど、地域振興という点を考えれば、それも”あり”だろうと私は思う。

会場内の写真撮影は禁止だったので、ここで写真で展示内容を紹介することはできないが、会場内でガイドサイトとして使われたサイトが現時点ではまだ残っていてアクセスできるので、みていただければと思う。*1

http://www.designbussan.jp/

このサイトの作りに似て会場構成はシンプルで、47都道府県に均等に真四角の展示台が割り当てられ、そこに、デザインされた「伝」(伝統工芸)「食」(食べ物)「創」(地域の催しや美術館など)「本」(地元誌)の4ジャンルと「伝」のみオリジナルの伝統工芸もくわえて、各都道府県5点の展示品が並んでいた。

会場ではiPod touchの貸し出しを行っていたが、人気があり出払っていて返却待ちの状態。私はiPhoneを持参したので、会場内のWiFiパスワードとガイドサイトURLを教えてもらってすぐにアクセス。

ガイドは、各都道府県の概要の紹介がQuickTimeの静止画と音声(一部動画もあり)で約2分収録され、そのほかに、上記5ジャンルについて、写真と文章、動画をうまく組み合わせた構成になっている。これは、説明するよりも実際にサイトを見ていただいた方が早いだろう。

展示にくらべて、ガイドサイト内容が充実しており、混雑していたせいかQuickTimeの再生が止まりがちだったことも手伝って、その場でガイドを見聞きするにはちょっとコンテンツの量が多い。これは会場に行く前に”予習”したり、帰ってきてから”復習”することができたらいいな、と思っていたら、会場外からもアクセスできたので、”復習”することはできた。ぜひ、当面このサイトをアクセス可能な状態で残しておいて欲しいところ。

通常の美術館などで貸し出される音声ガイドだと、音声のみという制約に加えて、こうした予習・復習ができないことを考えると、大きな進化だと思う。

また、iPhone/iPod touchが十分に普及すればだが、iPhone/iPod touchを共通のガイド機材として世界中の美術館などが採用すると、持っていない人にだけ機材の貸出しをすればよくなり、自分で持っている人はわざわざ保証金や身分証明書と引き換えにガイド機器を借りる手間もなくなる。メンテナンスも、サイトのメンテナンスをすればよいのでこれまでのガイドよりも手軽だし、そのうえ音声、図表、写真、ビデオなどを組み合わせたガイドを手軽に作ることが可能だ。

こうしたマルチメディアガイドが、世界中の美術館や博物館で採用されるようになり、入場者以外にもオープンにされると、いつでもどこでもガイド付きで美術品などの鑑賞をすることができるし、ルーブル美術館大英博物館のような巨大な施設に行くときには、あらかじめ”予習”をしておいて、お目当ての展示品を効率よく見て回る、ということも簡単にできるようになる。当然、広い館内のナビとしても使えるだろう。トイレに行きたくなったら、もよりのトイレがすぐにさがせる。もっといえば、展示品をネットで検索するように検索して、展示場所に行くまでの間は音声ガイドで予備知識を得ておく、というような展示の見方も可能になる。それが実現したら、とてもスゴイし、楽しい。

そのうえ、さまざまな制約で現地に足を運べない人でも、ガイドの作り込み方次第ではその美術館や博物館を見学することに近い経験をすることができるようにもなるだろう。中身の濃いガイドサイトであれば、少額を課金しても見る人が出てくると思う。また、日本語ガイドに対応していない美術館には、ウィキペディア的な精神で有志がボランティアで和訳するのでガイドサイトに加えて欲しい、というような働きかけも可能になってくるかもしれない。

また、今回の展示のように実際の物販を伴う場合などは、ガイドサイトから直接購入サイトにリンクしておく、ということも可能だ。

さらには、オンラインで入場券を購入でき、バーコード画像が入場券代わりになるようなシステムにしてしまえば、人気の展示でチケットの購入待ち、ということも解消されていくかもしれない。

さすがに、今回の展示では、この物販のオンライン化と入場のオンライン化はされておらず、いずれも紙ベースの対応(紙の入場券を買い、購入希望物産の紙のカードをレジに持参する)だったが、将来の可能性を感じさせるには現時点として十分だったと思う。

今後、こういう仕組みがさらに普及進展して、「イヤホンガイド」から「iPhoneガイド」へと進化していくのがとても楽しみだ。

それと同時に、これまでのケータイが音声・静止画・動画のいずれも扱えるのに、こうしたガイド機材として使われるに至っていない理由はなぜなのだろう、と思う。単に、そう思いつく人がいなかったからなのか。それとも、機器としての制約があったからかなのか。この点を突き詰めていくと、iPhoneが達成したものの正体が見えてくるはずだ。

*1:ただし、PCからでは”このウェブサイトはiPod touch / iPhone専用コンテンツです。iPod touch / iPhoneでアクセスして、ガイダンスをお楽しみください。”と表示されてアクセスできない。