Google Chrome登場、ブラウザ戦争はスマートフォンでも?

GoogleChromeがリリースされた。すでにたくさんの紹介記事やブログのエントリがあるので、ここでは携帯電話(いわゆるスマートフォン)にとってのChromeの意味を考えてみようと思う。

海部美知さんがご自身のブログにわかりやすくまとめていらっしゃるので引用すると、スマートフォンにおける、GoogleApple、MSの関係は以下のようになる。

       ブラウザー    モバイル           アプリ市場

                                                                                                        • -

グーグル   Chrome      Android         Android Market

アップル   Safari       iPhone          iTunes Store

MS      IE         Windows Mobile    Skymarket

私が気になるのは、この図の「ブラウザー」と「モバイル」(端末)の関係が「1対1」対応のままなのか、ということだ。

パソコンのソフトとしてすでにWindows用のSafariがあり、かつてMacOS用のIEがあったことを考えると、SafariWindows Mobile(WM)用に移植されたり、iPhone OS用のIE、さらにはAndrild用のIEとかSafariが出てくる、ないしWM用やiPhone OS用のChromeが出てくる、ということも、技術的にはあり得るのだと思う。特にChromeオープンソースを標榜するものであるから、開発する人がいれば、各種OS用のChromeが作られる可能性は高い。

ただ、AppleのコントロールするApp store(iTunes)で、IEChromeが提供されるとは、ちょっと考えにくいのではないか。App storeで扱うかどうかの判断は、Appleに強い選択権、拒否権があると見られるからである。

一方、Android Marketでは、Developers Blogの
Android Developers Blog: Android Market: a user-driven content distribution system

We chose the term "market" rather than "store" because we feel that developers should have an open and unobstructed environment to make their content available.

という言い方からするなら、Android用のSafariIEを置こうと思えば置ける環境ができるのかもしれない。

Skymarketについてはまだ詳しい情報がないが、既にWM向けのソフトは散らばって存在しているので、いきなりSkymarketに一元化されるとも考えにくい気がする。そうであれば、WM用のSafariChromeが登場してくる可能性は、十分あると思う。

こうしたなかで、かつてのパソコンでのブラウザ戦争が、スマートフォンの世界にも持ち込まれる可能性はあるだろうか。

90年代後半、パソコンのブラウザ戦争があったころの状況は、大まかに言って、ブラウザーにはNetscape Navigator(NN)とMSのInternet Explorer(IE)があり、OSにはWindowsMacOSがあった。結局、IEがNNを駆逐して大きなブラウザーシェアを獲得したが、改めて考えてみると、このブラウザ戦争でMSが得たものは何だったのだろう。

当時のZDnet記事そのものはすでに残っていないが、このページに残っている引用を再引用すると、

2003年4月21日 06:47 PM 更新
MSがブラウザ戦争で失ったもの、得たもの【ZD Net記事】

ソフト開発者がNetscapeをベースにコードを書くことが可能なら、そのコードはどのOSにも対応できる。そうなったら、すべてのマシンでWindowsを走らせる必要性はたちまちのうちに消えるかもしれない。
(中略)
 Microsoftは、Chase氏やSilverberg氏が望んでいた「インターネット=Microsoft」を実現することはできなかったが、Netscapeがこの目標を達成することは阻止した。

ということで、戦争に勝って「得た」というよりも、「失うことを阻止した」、ということか。少なくても、今冷静に考えて、MSがIEの覇権を握ることで得たものが、それほど大きなものだったのか、という気もする。何よりIEは無料で、それ自体ではMSに利益をもたらしはしないからだ。得たものはもちろんあっただろうけれど、MSが失ったものも大きかったはずではないか。

それが今後のスマートフォンブラウザーでも同じであれば、ここでことさらChromeを気にして、ブラウザ戦争再燃か、と考える必要はないかもしれない。

しかし、字義通りの「ブラウザー」ではなく、上記の引用にある、

Netscapeをベースにコードを書くことが可能なら、そのコードはどのOSにも対応できる

という指摘のとおり、準OS的な、アプリケーションのプラットフォームという位置づけで”ブラウザー”を捉えるなら、ちょっと状況は違う。Googleのwebアプリ群に代表されるような、ブラウザ上で動くwebアプリケーションが台頭してきていることを考えると、NNをIEが追い落とした時とは、ブラウザーの重要性が桁違いに大きいとも考えられる。

クラウドコンピューティングの進展とAjaxなどの技術の進化で、ブラウザー上で出来ること、済ませることが増えてきている(だからこそパッケージソフト販売が主軸のMSが焦っている)いま、ブラウザーの覇権を握ることの意味は、90年代とは違うと考えて良さそうだ。まして、詰め込めるソフトの容量や数などがPCよりも制約されるモバイルなら、なおさらブラウザーの重要性は高い。

そうであるなら、AppleiPhoneと同様に、MSもGoogleも他陣営のブラウザーが自分のOS用に入り込んでくることを阻止する、コントロールするのが自然だと思う。そうなれば、ブラウザの戦争ではなく、上の表の「1対1」対応は保たれたまま、OSや端末を含めての3陣営の総力戦になるということだろう。

そして、総力戦になるなら、同じく海部さんの下記の指摘、

モバイルに関しては、きわめて「端末の美的魅力」がモノをいう世界であるため、カッコイイハードウェアを持つアップルは最強。MSはもう何年もやっているのに、対応ハードでいいのが出ないために、いまだにぱっとしないので、グーグルも同じ問題を抱えることになるかも。アプリ市場もそれに引っ張られる。

ということで、ブラウザーというよりも、端末の善し悪しが決め手になってくるという可能性は高いように思う。

海部さんの指摘の通り、端末は”感触”とか”センス”の領域があるだけに、コモディティ化したPCとは競争の状況が違ってくる気がする。携帯端末の世界では、見た目がごつくてあまり美しいとは言えないDELLのPCが売れたようなわけには行かないだろう。

そう考えると、ブラウザ戦になっても総力戦になっても、今のところ3社の中ではAppleが優位に見える、ということになるのかもしれない。

一方、”和式ケータイ”で主に使われている組み込みブラウザーNetFrontなどは、今後どうなっていくのだろうか。NetFrontAjaxに対応するなど進化を続けているようだが、そういった最先端のブラウザーの使い方を求めるユーザーは、次第にスマートフォンに流れていってしまうように思う。

そうだとすれば、組み込みブラウザーは、字義通りの「ブラウザー」として、軽く早く使いやすくという方向に進化していくものの、プラットフォーム的な機能は求められなくなっていくのかもしれない。そのあたりの開発の方向性の見極めには、これからしばらくの業界動向を注意深く見ておく必要がありそうだ。