iPhone ≪アップル“敗戦”≫ を数字で読み解くと...

いろいろなところでこのニュースが引用されているようだ。

http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200809040080a.nwc

≪アップル“敗戦”≫

 日本では100万台売れる−との予測もあったアイフォーンに、もはや当初の勢いはない。アップルとソフトバンクは販売実績を極秘にしているが、通信業界に詳しいUBS証券の乾牧夫シニアアナリストは「20万台前後で止まっている感がある」と推測。年内販売は控えめに35万台程度と見積もっていたが、それにも及ばない情勢という。
(中略)
乾氏は「新しい提案のある製品だが、日本向けに手直しせず発売した点で市場を見誤っていた。一定のヒットはしたが、戦後処理も必要な段階だ」とアイフォーン商戦を総括。携帯が電話とメール機能にとどまっていた欧米と異なり、「日本はすでにネット閲覧や音楽再生機能を盛り込んでいる。アイフォーンの新規性は薄い」と市場環境の相違を指摘した。

発売2ヶ月も経過しないうちに「戦後処理も必要な段階」なんですか...。

ちょっとこの解釈に違和感を覚えたので、この推定「20万台前後」という数字を客観的に把握したいと思って、小学生の計算をやってみた。なお、そもそも20万台という数字自体が推定なので、以下の数字はかなり丸く扱った。

日本の携帯電話の出荷台数=年間約5000万台(a)

ソフトバンクモバイル(SBM)の契約回線数シェア=約20%(b)

SBM向け携帯電話出荷台数推計=(a)×(b)=1000万台(c)

この(c)のうちの20万台(現時点まで)がiPhoneだから、シェアは2%。

ところで、

SBM向けに1年間で出荷される機種数(2007年度:図1)=35機種(d)

SBMの1機種あたりの平均販売台数=(c)÷(d)=30万台弱(28.5万台)

これらは(年度と暦年が混じっているが)すべて年間の数字だから、iPhoneは、残り10ヶ月でさらに10万台弱売れれば、SBM全機種の平均的な販売台数に達する、ということになる。別な言い方をすれば、最初の2ヶ月弱で平均販売台数の2/3まで売った、ということだ。

ここまでが、考察とか意見ではなく、「算数」が導いた客観的な20万台販売の数字の分析である。


ここからが考察とか意見の世界。20万台という数字について、

●この新聞およびアナリストは、「敗戦であり、戦後処理も必要な段階」というご意見である。

●私は、「一般的なケータイではない(特殊な)機種として、ここまで売れていればまずまず。むしろ上出来かも。ファ−ムウェアのアップデートや人気アプリなどが出現することで、今後も一定数が売れていく可能性を考えれば、機種あたりの年間平均販売台数前後にはなる。」という意見だ。

少し自分の意見を補足したい。

SBMの場合、約2年前から端末の割賦販売制度を開始しているから、その制度の年季があける人=ローンを払い終わる人がこれから出てくることになる。割賦販売がなかった頃に比べれば、どの機種も発売直後の販売台数のヤマがなだらかになる傾向にあるだろう、という推論ができる。ローンが終わるのを待って機種変、ということになり、必ずしも新機種発売にあわせて機種変とはならないからだ。

そうなると、発売からしばらくたっても、iPhoneを購入する人は一定の数いると推測できる。そのうえ、先に書いたようにハード自体はかわらなくてもソフト面が変化していく分、ほかの端末よりも陳腐化しにくいだろうとも考えられる。まして、人気のアプリなどが出てきたら、それが販売を再び(ある程度)促進する可能性もあり、機種平均の年30万台弱販売も難しくないだろう。


では、なぜ、敗戦とか戦後処理とまで書かれなければならないだろうのか。

ここからは、完全に推測・憶測の域だが、可能性のあるシナリオを書いてみよう。

(シナリオ1)
新聞社やアナリストが、auNTTドコモに遠慮したり、場合により無言の圧力をかけられて、ソフトバンクに不利な結論に誘導した。
(記事を読むと、iPhone販売は具体的な数字を出して敗戦と書かれているが、ドコモのブラックベリーは販売台数も示されていないのに、販売好調・人気ありという演出がされている。ブラックベリーだって、販売から約1ヶ月経っているのに。これは公平な報道の姿勢なのだろうか。もっとも、iPhone発売直後のメディアの大騒ぎを考えると、ここでドコモの肩を持つのが公平な報道、ということか。)


(シナリオ2)
アナリストは口にできないが、アップルとSBMの間で極秘に販売台数の約束がされており(もちろん、これは私の憶測だ)、それが到底20万台などというレベルではないことを知っているので、今後SBMが契約違反を問われるということを暗にほのめかした。
孫社長が、いつもと違ってiPhone関係の売れ行きに”No.1”とかいうアピールの仕方をしないのは、なんだか不自然な気がする。ドコモに優先して販売権を獲得するのに、SBMは相当無理したんじゃないだろうか...。戦後処理=ドコモからもiPhone発売、という意味なのかな、などという邪推も。)


(シナリオ3)
アナリストが”シニア”アナリストなので、iPhoneを使ったこともなく、使いこなせない腹いせにネガティブなことを記者に語った。
(まあ、これは冗談ですが。でも、使ってないで言っていると思う、彼の指摘する「市場環境の相違」を読むと。)


(シナリオ4)
シナリオ3とは逆に、アナリストが相当な”アップル信者”で、SBM合計でも年に1000万台しか売れない携帯のうち、iPhoneはシェア10%=100万台売れても当然だと信じきっていたので、失望してアップルからの”改宗”を考えている。
(これは、もっと冗談ですが。)


どんな意見を持つかは自由だから、記事の意見自体をどうこう言うつもりはない。ただ、

一般的なケータイとは違う機種(iPhone)が、年間全機種平均で30万台程度の販売台数のところ、推定20万台まで売れた。

ということは、数字の導くところである、ということを、ここでは指摘しておきたい。