iPhoneの敵はケータイ、か? 〜競合商品考〜

これまでのエントリーでも触れたが、Android G1NOKIA5800などの”iPhoneキラー”と呼ばれるケータイ・スマートフォンが海外で続々と発表されている。また、国内の報道でも、携帯電話の販売台数のニュースに、iPhoneも1機種として含めて扱われている。その限りでいえば、iPhoneの敵はケータイ・スマートフォン、ということになるのかもしれないが、本当にそうだろうか。

iPhoneをはじめとするスマートフォンやケータイ電話の価格は、とても大雑把にいえば5万円を中心にしてプラスマイナス2万円程度なのだが、実はこの値段を出すなら、他にもいろいろなものが買える。

Eee PCに代表されるようなモバイルミニノートPC(ネットブック)も5万円くらい*1だし、発表されたばかりのニンテンドーDSi
とか、あるいは、PLAYSTATION 3*2などのゲーム機・ゲーム端末も、ソフトなどを含めて考えればこの価格帯と言ってよいだろう。

モバイルとか通信・ネットというジャンルの商品に限ってもこうだから、それ以外の商品やサービスのジャンルにまで広げるなら、5万円前後という値段は、それなりに満足度の高いものが手に入る価格である。たとえば、東京の高級一流ホテルに1泊するのも、このくらいの値段で可能だ。

お金を出す消費者にしてみれば、同じ5万円をどう使うか、何に使うかでしかなく、ゲーム機だとかケータイ端末だとかといった業界的な商品ジャンルの区分けは関係ない。自分にとって最も欲しいモノやサービス(コト)、最も価値を感じる、魅力的なモノ・コトにお金を使うだけのこと。

そういった個々の買い物の統計として、たとえばケータイなら今月に何台が売れ、それが対年前年比何パーセントで、買い替えサイクルは平均何年何ヶ月で、といった数字が出てくるが、ユーザーは、当たり前だがこの統計を見て買いものをするわけではない。そろそろ携帯電話を買い替えようかな、と思っていたとしても、より魅力的なモノ・コトが目の前に現れれば、自分の自由になるお金が増えるのでない限りは、携帯電話の買替えを先に延ばすだけのことである。買う側の立場で考えてみればごく当然のことなのだけれど、案外、売る側に回ったとたんに、このシンプルな事実を忘れてしまったり見えなくなってしまっていないだろうか。

特に、先にあげたようなモバイルミニノートやゲーム機とケータイ・スマートフォンは、それぞれが持つ機能が重なり始めていて、ジャンルの境界線が加速度的にあいまいになってきていると思う。小さなジャンルの中だけで競争の構造を考えていると、近接ジャンルの商品にシェアを食われてしまう可能性は十二分にあるし、さらには思いがけないジャンルの商品・サービスにお金が回ってしまうことだってあり得る。

スペック的な機能・要素にブレイクダウンして競合商品の比較表をみながら”売り”の戦略を考えることも必要だが、それでは十分ではない。まして、アメリカ発の経済不況が世界に広がりそうな昨今、当面は消費者の財布に決して明るい状況を期待できないのだからなおさら、消費者に”どうしてもこれにお金を使いたい”と思わせる魅力のあるなしが、シビアに販売成績に反映していく時代がしばらく続くのではないか。

つまり、同じシャンルの商品同士での比較なら当然のこと、他ジャンルの商品やサービスをさておいても欲しいと思わせるだけの魅力があれば、その商品がおかれたジャンルの市場規模とは関係のない、別な市場のパイを取りにいけるということで、市場規模の制約から自由になれる。そうでなければ、経済の低迷に比例して”売り”も低迷するしかないし、他ジャンルからパイを食いにくるモノ・コトが入り込んでくれば、一層低迷するということになる。

たとえば日本のケータイメーカーであるなら、どうやってEee PCやニンテンドーDSiのパイを取っていくのか、といった戦略も考えていく必要があるだろう。案外、国内に限らず、海外市場にどうやって出て行くのかということを考える上で大きなヒントがあるかもしれない。少なくても、iPhoneが思ったよりも売れていなくて一安心、などと言っている場合ではないのである。

*1:もっとも、通信端末とセットでいわゆる100円PCにもなったりすることは、以前のエントリーで書いた通り。

*2:先日のCEATECでグリッドコンピューティングへの参加などPC的な機能のデモを行っていた。