不況でiPhone/スマートフォンが売れる?

ITmedia +Dモバイルにこんな記事が出ていた。

 iPodでも一般ユーザー層への浸透という「離陸」まで3年かかった。それを考えれば、iPhone 3Gの離陸は、動きの速い携帯電話業界であっても、短くても10ヶ月程度の時間を必要とするだろう。エコシステムの構築に時間がかかれば、モデルチェンジを経て1年半から2年ほどの歳月が必要になるシナリオも考えられる。

本当にiPhone 3Gは“失敗した”のか (2/2) - ITmedia Mobile


iPodが普及する過程について詳しく検証されているが、それだけでなく、iモードや写メール・着うたの普及にも時間がかかったのだとしており、iPhoneが市場に根付くかどうかは、早くても来年の夏まで結論を待つ必要がある、というのが筆者の主張だった。

この記事では、スマートフォン/ケータイとしてはiPhoneについてのみフォーカスされているのと、経済環境については特に触れられていないので、もう少し範囲をひろげて周辺環境を考えてみた。

私の仮説を先に書いてしまうと、
1)現在の世界的な不況が、iPhoneスマートフォンの普及を加速する可能性もある。

ということと、
2)iPhoneを含むスマートフォン全体の”エコシステム”が日本で整うのは、再来年2010年の夏くらいまでかかるのではないか。

ということになる。この2つの仮説を立てた理由を書いてみたい。


■経済不況が、iPhoneスマートフォンの普及を後押しする可能性

アメリカに端を発する金融危機・経済失速がこの後どのような展開をみせるのかはわからないが、日本も含めて、しばらくはその余波を受け続けるとみるべきだろう。そうなれば、携帯電話端末の需要一般にはマイナスであると受け止められているし、実際に、ここ数ヶ月でみて、日本でもアメリカでも携帯電話端末の売れ行きは思わしくない。

ただ、個別の機種・ジャンルを見たときに、売れるものと、そうでないものがはっきりとしてくるのではないかと思う。

iPhoneの競合に関するエントリー(iPhoneの敵はケータイ、か? 〜競合商品考〜 - Batayan’s Log)でも書いたが、個人ユーザーからすれば、必ずしも携帯電話を買い替えるためのお金が携帯電話に使われるとは限らないし、逆もまたその通り。携帯電話を買うつもりではなかったお金から、iPhoneスマートフォンが買われる可能性があるのではないかと思うのだ。

ステイケーションstaycation)などという言葉が生まれているように、不況の影響で、休暇といっても遠出をせずに自宅で過ごすという人も増えている。実際、この夏休みには、アメリカでは遠方の親戚友人とコミュニケーションするために、ウェブカメラが売れている、というニュースをポッドキャストで聞いた。

失業してしまったという方は本当に大変だと思うが、そこまでには至らずにすんでいる人の場合、家族そろって遠出の旅行をするほどのお金はかけられないけれど、多少の出費で楽しく自宅で過ごすための買い物はすると考えられる。

そうなると、例えば、旅行をあきらめるかわりに、ちょうど買い替えたいと思っていたノートパソコンと普通の携帯電話の置き換えとしてiPhoneを買う、という選択肢も出てくるのではないだろうか。iPhoneがあれば、使い方にもよるが、ある程度ノートパソコンと携帯電話の両方の用途を満たすこともできるし、無料だったり少額で買えるソフト(App)を買えばゲーム機のようにも使えるし、Appを変えれば楽しみ方も変えられる。

また、景気失速の中で企業が新たな投資をすることも減るだろうが、それに応じたセールスを携帯電話会社の方もかけていくだろう*1

その時に考えられるセールストークとしては、何といってもコスト削減である。携帯電話とモバイルパソコンの両方を会社が社員に支給・貸与するくらいなら、iPhoneスマートフォンにまとめれば安くなりますよ、というアピールができそうだ。個人情報流失事故など、データセキュリティの確保が問題になる中で、パソコンの社外持ち出しを制限する会社もあるようなので、これもスマートフォン導入のきっかけになるだろう。

そのうえ、WiFi環境があれば、スマートフォンからSkypeなどVoIPサービスを利用することで、通話料の削減にも寄与できる。通信の秘密の確保などの問題はあるが、セルラーや固定電話とVoIPとを適切に使い分けていけば、企業のコスト削減に貢献することになる。

こうしてSkypeなどが企業単位で利用されるようになれば、名刺にskype名が刷り込まれるようになるなどして、急速ではなくても1年から2年というスパンでビジネスユーザ−が増えていくことになる。そうなれば、無料で通話できることなどの利便性が、プライベートでも評価されていくだろう。ユーザーが増えれば浸透度が加速するから、数年もたたないうちにVoIPがひろく一般に普及してしまう可能性も十分にあるだろうし、その対応端末はスマートフォンからということになるのだと思う。

以上のように、景気失速で、企業のコスト削減や個人が相対的に安い値段の遊びを求めるなかで、スマートフォンが売れていく可能性はあると思われる。


■日本のスマートフォン市場離陸は、2010年頃?

iPhoneに続いて、メーカー各社が続々と新たなスマートフォンを発表し、キャリアがその採用をしはじめている。

ドコモは個人向けにもブラックベリーの販売を始め、ソフトバンクは年内にもSAMSUNGOMNIAを導入するのではないかと言われているし、auも来春からHTC製のスマートフォンを導入する。まだ正式なアナウンスはないものの、Android搭載のG1や、NOKIA5800といった最新のスマートフォン、2代目PRADAフォンなども、来年のうちには、かなりの種類が日本市場に投入されるのではないだろうか。

そう予測する根拠は、日本のキャリアにとって、この不況の中でも買い替えてもらうための新しさをもった端末が、しばらくはスマートフォン中心になるだろうと思われるからだ。既存の和式ケータイは、ワンセグ・高画素数カメラ・高速通信(HSDPA)が一巡し、これといった新しさを次にどこに求めるのか模索中という印象を受ける。これは、ユーザーからすればケータイを買い替える動機に乏しいということで、壊れない限り今使っている端末を使い続けることになるだろうし、そのうえ2年縛りの販売方法が一般的になってしまったので、買い替えには慎重になるはずだ。

そうなれば、端末自体の販売も減ってしまうから(現に減っている)、国内の端末メーカーはこれまでのように新機種を多数出すわけにいかなくなるだろう。そういう状況で、キャリアとして端末のバリエーションを確保し、新しさをアピールして買い替え需要を喚起するための方策は、海外メーカー製の端末を日本向けに仕立てて導入することであり、中でも目玉はスマートフォンということになるだろう。既存の和式ケータイ的な端末を入れたところで目新しさが望めないとするなら、必然的にそうなるはずである。

こうして、iPhone以降の新世代スマートフォンのラインナップが日本市場でも充実してくるのが来年であるとすれば、その利便性が浸透し、ユーザーが増えてくることでメジャーになるまでの期間が1年程度と考えて、日本で本格的にスマートフォンが市民権を得るのは、2010年になるのではないだろうか。

そのとき、iPhoneが日本でまだ売られ続けているかどうかは分からないけれど、日本のケータイ端末のなかで、今はスマートフォンとして括られているものが、徐々にドコモの90xシリーズのような位置付けになり、これまでの和式ケータイが70xシリーズのように位置づけられるようになる、というシナリオは、以前のエントリー(iPhoneの対抗機種(?)NOKIA Tube発表と、「スマートフォン」カテゴリーが消滅する日 - Batayan’s Log)に書いた通りだ。

いずれにしても、この数年、日本を含めて携帯電話業界の動向には目が離せない。