MNPから2年、販売奨励金廃止から1年。いま総務省が目指すべきこと。

奇しくも、MNPが導入されて約2年、総務省のモバイルビジネス研究会の報告書が発表されて約1年を迎えた。

まず、MNPに関していえば、当然のことではあるが、制度導入に伴って、キャリア間の料金プランには違いがほとんどわからないほど似通ったものになってきた。サービスエリア・電波状況も、ローカルはともかくとして少なくても一定以上の人口が集中する都市部においては、一般ユーザーには大きな違いが感じられない程度にまで改善された、ということが出来ると思う。

そうなれば、わざわざMNPを利用してキャリアを乗り換えようという動機付けは、導入前の状況に比較して弱くなって当然である。だからこそ、MNPを利用したユーザーは当初の予測より低い数値にとどまったと見るべきだろう。他キャリアへのユーザー流失防止の努力が行われた結果、MNPの利用率が低くとどまったのだとすれば、それはユーザーに対するサービスレベルが全体的に底上げされたと考えられるのであり、一概に否定的にとらえられるべきではないはずだ。下記の記事に代表されるように、単にメールアドレスのポータビリティといった障害がMNPの利用を妨げたとする分析は、一面的にすぎる。MNP導入は、ユーザーに対するプラスの効果を生んだ部分が、少なくてもあると評価することができるだろう。

Expired

この記事と前後して、総務省の「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」が開催されたというニュースがあった。

総務省で携帯市場評価会議、「官製不況ではなく構造改革中」

昨年9月にまとめられた報告書に対する疑義は、本ブログの過去のエントリーに書いた通りであるから、その報告書をふまえた評価会議の内容については、おなじ疑義を繰り返すことに近いので、あえてここでは議論しない。

むしろ、総務省が日本国の行政として目指すべき”活性化”は、どこに焦点を置くべきなのか、ということを改めて考えてみたい。

総務省をはじめ日本国の行政機関が目指すべきことは、国民全体の利益、つまり国益の維持と向上のはずだ。そうでないなら、税金を払って国民が公務員を雇う意味がない。

では、モバイル分野を広くみたときに、何をめざすことが、マクロにみて国益につながるのだろうか。

これは私の意見になるが、それは、本ブログでもことあるごとに主張しているとおり、モバイルとインターネットの融合市場が生み出す情報流通の大変革の波に、日本(国民)が乗り遅れずについていけるための環境整備、である。

情報流通が変わる、ということは、単にモバイルの世界の問題に留まらない。(マス)メディアのあり方は当然として、産業全体の構造、経済の構造自体に大きな変化が生まれる、ということに他ならない。

そうであるなら、次の世代において日本が世界の中でプレゼンスを保ち、国内産業の活性化を図ることで雇用を生み出し続け、国としての繁栄を維持強化するためのキーになるのが、モバイル市場の活性化、ということになるはずである。

そのためには、これも本ブログで繰り返してきた主張になるが、キャリア独自のサービスは否定しないが、独自サービスのなかにモバイルネットの可能性を閉じ込めることをやめて、”真のネット常時接続環境”としてのモバイル環境を確保することが必要である。

そして、この流れは世界的な流れであると考えてよく*1、そうなら、この流れに逆らわない行政の方針をもつことで、おのずと携帯電話メーカーの(国際的な)競争力も強化されることになるはずではないだろうか。

”モバイルビジネス”という小さな世界を活性化しようとする枠組み自体が、現在の情報通信大変革時代において、あまりに限定されたテーマ設定であるという印象は否めない。

キャリアだけでなく、総務省も、柵に囲まれた狭い自前の”庭”の中での議論に終始しているようでは国益を代表する機関として失格である。

いま総務省として取り組むべきは、国益の最大化という文脈の中に、販売奨励金の有無にせよSIMロック解除の必要性にせよ位置づけて議論をするべきなのであり、そういう大きな目標がないままでは、議論は迷走するばかりだと思うのである。


※過去の関連エントリー

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PCメールのアクセス制限 〜閉じられたケータイメール空間〜 - Batayan’s Log
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*1:NOKIA CEOの発言を参照。