一足飛びに追いついてくるアメリカの携帯事情

第3四半期の携帯端末の出荷状況が相次いで発表されている。

メディアやブログではiPhoneアメリカで機種別の販売台数トップになったという紹介のされ方が多かったが、第4四半期にはRIMのブラックベリーやアンドロイドG1のシェアがiPhoneより高くなるであろうことはほぼ間違いがないので、ここではスマートフォン全体の動向を把握する視点でとらえ直してみたい。

全世界のデータはスマートフォンの”出荷”台数、アメリカのデータは携帯端末全体の”販売”台数という違いがあり、また調査元も違うので一概に比較できないことは承知しているが、大きな傾向をつかむために、概数として2つのデータを比較できる形で整理してみた。なお、アメリカの調査については、”Mobile phones with a QWERTY keyboard”をスマートフォンと読み替えているので、この点でもかなりおおざっぱな比較だということは、予めお断りしておく。

                全世界 / アメリ

                                                                                                          • -

携帯端末全体の出荷/販売台数: 30700 / 3200 万台
スマートフォンの出荷/販売台数: 3990 / 960 万台
スマートフォン比率:       13 / 30 %

                                                                                                            • -

データの出典は以下の通り。

世界
08年Q3のスマートフォン世界出荷台数は27.9%増,Appleが急伸 | 日経 xTECH(クロステック)
Canalys Newsroom- Global smart phone shipments rise 28%

アメリ
米携帯電話販売台数シェア、iPhone 3Gがトップに――NPD調べ - ITmedia Mobile
The NPD Group: iPhone 3G Leads U.S. Consumer Mobile Phone Purchases in the Third Quarter of 2008



ガートナーが発表した第2四半期のデータでは、世界のスマートフォン販売台数が3230万台ということであったので、これが約4000万台になったということは前四半期とくらべて25%近い伸びということになり、同じ調査元の27.9%増という数字と大きくはずれていないので、こうした比較も概数としては使えるものと考えて良さそうだ。

アメリカのデータでiPhoneがはたして”Mobile phones with a QWERTY keyboard”の中にカウントされているかどうか微妙ではあるが、カウントされているとしても30%、そうでないとしたら30%をかなり上回る割合のアメリカの新規販売端末が、数字キーではなく、QWERTYキーボードで入力ができる端末、ということである。しかも、前年同期の比率は11%だったということであるから、急激な比率の上昇だ。

もちろん、買い替え周期の問題はあるが、アメリカではそう遠くない将来に、全ユーザーのスマートフォン所持率がクリティカルマスを超え、本格的なモバイルインターネットの普及期を迎えることになると見るべきだろう。

対する日本はどうか。あまりめぼしいデータがないが、昨年の予測データ*1によると、今年2008年のスマートフォン出荷台数が約200万台、昨年のデータであるから年間5000万台の総需要と考えるなら比率は4%だ。iPhoneですら販売が20万台とか推測されている状況である。今年中に200万台の出荷となるのだろうか。

もちろん、QWERTYキーボー端末が必ずしも(フルスペックの、つまりiモードのような擬似的なものではない)モバイルインターネットの前提ではないし、回線の問題(2.5Gか3GかWi-Fiか)もあるから、このデータをもって、一概にアメリカのモバイルインターネット事情が日本を追い越すのだとは言えない。

ただ、注意しなければいけないのは、アメリカは、日本の”iモード”のような疑似モバイルネットの段階を経ずに、一足飛びにフルスペックのモバイルインターネットの世界に移行することは、ほぼ間違いない、ということである。リニアに日本の携帯電話の世界を段階を踏んで追いかけてくるわけではないのだ。QWERTYキーボード搭載端末の比率が高まり、もともとタイプライターになじんでいる国であるから、一定以上の割合の人がPCと同等のモバイルインターネットを使い始めると、あっという間にアメリカ人の携帯電話生活が変わる可能性がある。日本が、疑似モバイルネットの世界から移行できないでいるうちに、気がついてみたら一足飛びに追い抜かれている、というシナリオは十分に想定されるのだ。

日本のキャリア関係者の一部が、諸外国のキャリアは日本の(垂直統合型の)ビジネスをうらやましがっているのであり、これが世界の最先端の姿である、といった趣旨の発言をすることが見られるが、”うらやましがる”のは本当だと思うが、それで各国のキャリアが日本と同じ”最先端の”ビジネスモデルになっていくのか、というと、そう考える材料はない。

アメリカの事情を見れば、スマートフォンビジネスにおいて、AT&TよりもAppleが、T-mobileUSAよりもGoogleが主導権を握っていることは明白であるし、もっといえば、若干立ち位置が違うとはいえ、AppleGoogleといった(PCベースの)ネット巨大企業が、アメリカのみならず世界の携帯キャリアよりも優位なポジションをとろうとしているし、現にそうなりつつある、ということである。

あと3ヶ月後には、2008年の年間のデータが発表されることになる。そこでどのような数値が出るのか、注目していきたい。