"車内"LANの時代

バスやタクシー車内で無線LANを提供する試験サービスが始まっている。

http://www.limousinebus.co.jp/news/081209.htm
http://www.accawireless.com/release/081203.html

いずれも携帯電話網のHSDPAを利用したものだ。

つまりこの”車内”LANが使える前提として、携帯電話が使える場所にクルマがいることが必要ということになる。携帯電話が使えるのに(無線)LANを提供することで、ユーザーにどんなメリット・ベネフィットがあるかを考えてみた。



ひとつは、PSPiPod touch無線LAN(以下WiFiと表記)対応(アダプタ付き)のPCなどが使えるようになること。これは、上記のプレスリリースにも書いてあるとおりだ。気が付いてみるとノートPCも多くはWiFi対応(アダプター内蔵)になっているし、外付けのWiFiアダプターで対応するにしても、契約不要なこともあって携帯ベースの通信カードを買うよりも気軽で安価である。

そのうえ、ニンテンドーDSPSPなど、携帯型のゲーム機がWiFiに対応しているので、WiFi対応機器は、一般に思われているよりも実は台数が多いのだと思う。こうした機器の多くは実際にはWiFi機能はさして活用されないままになっているのだと思うが、ユーザーが利便性に気がつき、車内も含めて利用可能エリアが充実してくるなら、もっと活用されるようになるかもしれない。



もうひとつは、携帯網(HSDPA)とWiFiのどちらでも使える機器あるいはユーザーにおいて、WiFiの方がメリットが大きい場合にも、こうしたサービスが利用されることになるだろう。典型的にはiPhoneのように、通信手段としてどちらでも利用可能な端末が対象となる。

携帯よりもWiFi利用の方が料金が安い場合、WiFiのサービスが選ばれることになる。大きく言えば、WiFiの事業者はHSDPAの利用料金を支払い、その費用をWiFiの利用者に転嫁するという構造になるはずだから、料金的にはWiFiの方が不利になるはずだ。ただ、料金体系の作り方や料金プランの選び方によって”ゆがみ”が生じるなら、そこを突いて利用するとWiFiの方が安いケースも出てくるかもしれない。

また、iPhoneからiTunesストアやSkypeなどを利用する場合のように、WiFiからしか利用できないサービスを使いたい場合、また何らかの事情で携帯電話の使用が禁じられている場面*1では、料金にかかわらずWiFiを利用するメリットが存在することになる。

通信スピードは、WiFiの先がHSDPAである以上、理論的にHSDPAよりも早くなることはないのだろうから、スピード面ではWiFiが有利になるわけではないだろう。ただし、これは同じキャリアの波で比較した時の話である。たとえば、契約しているキャリアの携帯の波は拾えているけれどスピードが遅い・安定しない、というときに、車内のWiFiの先が別のキャリアのHSDPAで帯域に余裕がある、という場合などは、実際問題としてWiFiを利用したほうがストレスがない、というケースは出てくるだろう。



このように考えると、携帯電話ユーザーが車内LANの恩恵にあずかる場面というのは、かなり限定的なのかもしれない。

ただ、料金面で言えば、車内だけでなく、街中のWiFiスポットも含めた利用料金体系が設定されれば、実際には車内での利用コストの上昇を抑えることもできるかもしれない。車内も含めて、WiFiの利用可能な場所が増えていくなら、携帯のパケット定額料金からWiFiのデータ通信定額に乗り換え、データ通信はWiFiをメインで使って、どうしてもWiFiが使えない場面で携帯の従量料金制パケット通信を利用する、という使い方も想定できないわけではない。車内はともかく、街中のWiFiスポットの方がHSDPAのパケット通信よりも実効スピードが出るということになれば、非現実的な想定とも言えなくなってくるだろう。もちろん、こうした利用が可能なのは、大都市を中心としたエリアでのユーザーの一部に限られるかもしれないが。

また、新幹線で提供される予定のWiFiサービスのように、携帯電話が圏外の場所でも使えるなら、ユーザーのメリットは大きいだろう。新幹線に限らず、走行中の地下鉄車内などでも使えるようになったら、WiFiユーザーは増えていくかもしれない。

いずれにしても、試験サービスが始まったような自動車内だけでは、サービスのメリットを十分にユーザーに感じてもらうことが難しそうだ。しかし、これが列車内、機内、街中と面的に広がっていくなら、データ通信の面では、携帯網のサービスとの競争力があるものになっていくのかもしれない。

いずれにせよ、選択肢が増えることは歓迎だ。今後、車内LANがどのように普及するのか、あるいはしないのか、興味深い。

*1:たとえば、以前のエントリーで書いたアメリカの機内LANサービスも携帯電話の電波を経由して機内LANサービスを提供しているようだが、機内で携帯電話の利用が禁止されているならWiFiの方を利用するという選択が出てくるだろう