5万円のモノの売り方

携帯電話が売れていない。10月の国内出荷台数に至っては、前年同月比で6割近い落ち込みである。

10月携帯電話出荷台数は‐57.8%、モデル切り替えの谷間:プレジデントロイター

考えてみれば、当たり前といえば当たり前のことではある。携帯端末自体の機能をみても、昨年と比べて買い替えたくなるほどの変化に乏しい。新規加入者がほとんど見込めないことは自明であるにも関わらず、販売施策は新規加入を前提にしたものばかりで、明確に2台目需要を意識したようなプランや商品が出てきているとはいいがたい。

辛口なことを言えば、これまであまり工夫しなくても売れてきたことの惰性を、いまだに業界全体が引きずっているのだ、ともいえる。総務省が仮に何もしなかったとしても、こうした市場の変化はいずれは起きたことだといえるかもしれない。

今こそ、これまでの携帯電話の売り方を見つめ直し、再考すべき時。今までどおりでは売れないことは、ちゃんと数字が証明している。

販売奨励金がなくなった結果、平均的な携帯端末の(見かけの)値段は2〜3万円から5万円前後になった。わさわさと落ち着かない店頭で、せいぜい各機種1台づつしかない実物(実機)をゆっくり触ることも出来ず、おもちゃのような実物模型(モック)を触るだけで買ってもらえている、そんな5万円の商品が他にあるだろうか。それも立たされっぱなしのままである。今どき、”立ち食い”そばの店だって、座って食べられるのが当たり前になりつつあるというのに。

では、他の業界・業種を見渡したときに、5万円のモノはどう売られているだろうか。もっといえば、不況でお金の価値が上がった今、現在の5万円は少し前の5万円よりも重みがある。そうであるなら、10万円のモノをどう売るか、というところから考えるべきかもしれない。

具体的にどうしたらいいか、ということは、私のメシのタネでもあるからここでは書かないが、渋谷で行われていたSAMSUNGOMNIA体験イベントは、この点でヒントになることがあったように思う。

屋外の仮設とはいえ、テントの下にいすとテーブルがあり、SIMカードも入った実機を座ってゆっくり試すことができ、暖かいコーヒーも無料で提供されていた。特に端末が高機能になっていけばいくほど、また新しい機能を搭載した時ほど、こうして実際に体験できることが、購入に結びつけるために非常に重要だと思うのだが、どうだろうか。

たとえばiPhoneも、量販店の店頭だけ見ているとわかりにくいかもしれないが、アップルストアの店頭でどのように扱われているのかを見れば、従来の携帯電話とは違う売り方をされている、と理解できるだろう。

もちろん、じっくり試せると、いいところだけでなく、アラも見えてしまう。店頭などでモックを触れさせただけでサッサと売りさばいていた時のような、言葉は悪いが”売り逃げ”はきかなくなる。当たり前だが、商品作りも一層きちんとやっていく必要に迫られるということだ。

キャリアとメーカーが複雑に絡んでいるだけに、どのように売っていくかということは他の商品ほど簡単に変えていけないかもしれない。しかし、手を打ったところとそうでないところで、今後大きな差がついてくるような気がする。1年後、携帯電話の売り方はどう変わっているだろうか。