アメリカで上昇するスマートフォン比率と、低下する端末価格

アメリカのNPDグループの調査によると、08年第4四半期の携帯端末におけるスマートフォンの販売台数比率は、前年同期12%からほぼ倍増の23%と、売れた端末の4台に1台はスマートフォン、という状況になった。第3四半期*1につづいて、スマートフォン優勢の傾向が定着してきていると言えるのではないだろうか。

スマートフォン販売台数、米国で記録的な伸び--NPD調査 - CNET Japan
THE NPD GROUP: DESPITE RECESSION, U.S. SMARTPHONE MARKET IS GROWING

同時に、店頭での販売価格の平均は167ドルと、前年の216ドルから23%低下している。

この台数比率の上昇と販売価格の下落には、iPhone 3Gや、T-mobileのG1、Blackberry Stormなどの影響が大きい、というのが調査元の分析だ。

ガートナーの調査によれば、全世界では第4四半期の携帯電話販売台数が5%減となっているなかで、米国の経済状況を考えれば、この伸び率は特筆に値するものだろう。一方で、販売奨励金廃止によって、日本の携帯電話市場は、世界平均を遥かに下回る縮小に見舞われた。

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ただ、以前のエントリーでも仮説として書いたが、逆説的ながら今の経済状況を踏まえればこそ、アメリカのこうした傾向には納得が行く。いくつかの要因があると思うが、NPDが分析している、iPhone 3Gが初代の399ドル〜から一気に199ドル〜に値下げして販売されたことが競合する商品の価格設定にも影響したことに加えて、

・初代を含むiPhoneの登場によって、スマートフォンが、ビジネス専用のツールではなく、プライベートユースも含め汎用性を備えたカテゴリーの商品にポジションを移したこと。

・ビジネスユーザーに高価格帯の端末を買ってもらうことが期待しにくい中で、一般ユーザーにもスマートフォンを買ってもらいたいという動機がメーカー側に働いたと推測されること。

・キャリアとしても、販売奨励金の持ち出しはあるが、定額制にせよ従量制にせよデータ通信の利用分だけ増収が見込め、契約期間中それが継続されるスマートフォンユーザーの獲得が、経営の安定に寄与すると考えられたこと。

・冒頭の調査によると、すでに2/3のスマートフォンが3G回線を利用し、接続スピードを含めて自宅のPCに近い使い方が出来るスマートフォンが、ユーザーにとって、PCと携帯端末とを同時にリプレースでき、しかも値段もこなれた存在と映ったのだと推測されること*2

といったことが、スマートフォンの普及・浸透につながったのではないかと考えられる。

実際に、スマートフォン価格の下落は、アメリカに限らず著しい。昨秋にヨーロッパで発売され、アメリカでは2月後半に発売されたばかりのNOKIA5800は、スペインの携帯販売店店頭では、契約しばりはあるものの、すでに0ユーロだった。


0ユーロのシールが貼られたNOKIA 5800(スペイン・バルセロナにて)

また、先日のエントリーでも触れたように、イギリスでは、オレンジが、ブラックベリー端末を、契約期間の縛りがないプリペイドユーザーにも販売しはじめている。

実際には、これらの価格は販売奨励金を織り込んだものなので、契約に縛られずに奨励金なしで購入すると、はるかに高い。それにしても、たとえば、いわゆるグーグルフォンであるT-mobileのG1は契約なしでも399ドルで購入できるし、iPhone 3Gにしても、日本で16GBモデルを一括で支払った価格は手元のレシートの記載で87,840円。他のアップル社製品のアメリカと日本での価格差を考慮すると*3、米ドルベースなら750ドル程度となり、これをさらに現在の為替レートで割り戻すなら7万円前後ということになるだろう。

この約400ドルから700ドル前後という価格帯は、ドコモの新発売機種の店頭価格が5−6万円程度だから、現在日本で売られている端末の店頭価格と同じレンジに入ってくるし、むしろ日本の端末価格の方が、世界で販売されているスマートフォン端末の価格よりも高い傾向にあると言えるだろう。

しかし、中身はともかく、見かけとしては、日本の携帯端末は、海外のユーザーから見れば電話とメールと若干のウェブが使えるだけのコモディティ化した端末にしか見えないはずだ。これを、そのまま海外に持っていったとしても、せいぜい100ドル/ユーロ前後の端末という見られ方になってしまうだろう。

もちろん,実際の中身は、GPSおサイフケータイ、いわゆるフルブラウザなども搭載した高機能端末であり、性能のポテンシャルは、日本の端末のほうがスマートフォン一般よりも高いのかもしれない。ただ、それを一般のユーザーが活かしきれるユーザビリティを備えているのか、また所有する喜びを与えているのか、という点は、よく検討する必要がある。

日本の端末メーカーの課題に書いたことの繰り返しになるが、たとえは悪いかもしれないが、高級車のボディに大衆車のエンジンを積んだクルマと、大衆車のボディに高級車のエンジンを積んだクルマが同じ値段だとしたら、どちらを買う人が多いだろうか、ということだ。

これから、日本の携帯端末メーカーが海外でも販売しようとする時、急速に変化しているこうした海外市場の動向は踏まえておく必要があることは当然だ。

また、日本で携帯端末の販売台数が大幅な減少傾向にあるということは、販売奨励金の問題を差し引いても、日本のユーザーが、いま売られている端末に買い換えるだけの価値を見出せていない、と理解するべきだろう。アメリカでは、経済状況にもかかわらずスマートフォンの販売が伸びているのだし、もともと頻繁に機種変更してきた日本のユーザーには、価格と価値が見合うなら新しい端末を手にしたいという潜在的な欲求は今でも高いだろうと推測される。

しばらくは続くとみられる低調な経済状況のなかで、日本でも世界でも、ユーザーは、価格に見合う価値があるかどうか、厳しい目で商品を選ぶ傾向が続くものと考えられる。そのとき、ユーザーにとっての価値とは、中身の部分、クルマのたとえで言えばエンジンの部分とは限らない。むしろ、エンジンは少々非力でも、運転しやすくてボディの見栄えがするクルマに、より大きな価値を感じるのかもしれない。

日本の携帯端末は、「エンジンは立派だが、運転しにくく、乗っていてもカッコいいと思えないクルマ」になっていないだろうか。

*1:第3四半期についての過去のエントリーはこちら

*2:過去のエントリーで記事を紹介したが、実際に私が今年1月にサンフランシスコのat&tショップで目撃したiPhone 3Gの購入者は、バギーに赤ん坊を乗せた平均的な身なりの夫婦など、ごく普通の人たちだった。

*3:日本の方が為替レートよりも割高な設定になっている。たとえば、アメリカで599ドルのMac miniは日本では69,800円と、1ドル約117円の換算になる。