機種変更したくなるためのデザイン

諸事情あって、そろそろ携帯電話(和式の方)を新しい機種にしなければならないのだが、それを考えると憂鬱、とまでいうと大げさだが、少なくても面倒くさいという気分になる。せっかく新しい携帯を買ったのに、どこか気分が高揚し切れない理由が、データを移すことの煩わしさ、という人は少なくないのではないだろうか。

microSDなどのメモリーカードが使えるようになってから、アドレス帳などのデータを移すことは格段に面倒が少なくなったのであまり気にならないのだが、問題はおサイフケータイなど、ICカード関係の移行だ。

http://www.nttdocomo.co.jp/service/osaifu_shopping/osaifu/about/ic/

ドコモの場合、こうしたデータの移行は、販売店にあるデータ移行用の機械(PC)を使って行うことになるのだが、前回の機種変更の時にはこの移行機が不安定で、何度もやり直しをしなければならなかった。手間がかかる煩わしさとともに、何度もやっているうちに、データが消えてしまうのではないかという不安もあった。

また、すべてのICカード関係のデータがこれで移行できる訳ではなく、たとえば、モバイルSuicaなどは、この操作とは別な手続きをしなければならない。

こうした手続きは、ICカード関係の利用サービスが増えるほど手間がかかることになる。ドコモのホームページに書いてあるほど”簡単”ではないと私は思うのだ。

日本の携帯電話端末の販売が激減しているのは、販売奨励金の廃止が大きな理由というのは間違いないだろうと思うのだが、こうした、買い替えに伴う機種変更の面倒臭さが、さらに販売不振を加速させている一要因になっている気がする。MNPにしても、MNP自体の手続きに加え、例えばauおサイフケータイからドコモのおサイフケータイにデータを移行する手続きがどうなるのだろうと思うと、考えただけで気が進まなくなってしまい、ちょっと魅力的な機種やサービス・料金設定があるくらいでは、私は利用したいという気にならない。

新しい端末をどう魅力的に仕立てるかというところにばかり目がいっている気がするのだけれど、実はこうした地道な部分の使い勝手・サービスの内容が、ユーザーの機種変更の気持ちを大きく後押しするはずではないかと思うし、成熟期に入って久しい日本の携帯電話(端末)市場で、まず改善するべきはこうした部分だと思うのだ。せめて、同一キャリアの同一メーカーの機種同士なら、簡単にデータ移行が完了するという仕組みを作れないのだろうか。そうすれば、キャリアにとってもメーカーにとっても、ユーザーをつなぎ止めておく手段・機種変更を促進する手段としてプラスに働くのに、と思う。

一つの可能性としては、SIMカード(USIMカード)に、こうしたデータを格納してしまうという方法もあるのかもしれない。韓国では、ポイントカードの記録データをSIMカードに格納して、ポイントカードを持っていなくても携帯電話さえもっていればOKというサービスが開始されるそうだ。

Nectar Card in your mobile? | Korean Insight

iPhoneでもおサイフケータイ機能を利用するために、SIMカードFelicaチップを内蔵して実現できないか、ソフトバンクが検討しているという噂が流れたことがあったが、もしこれが可能なら、ICカード関係のデータ移行は、キャリア変更を伴わなければ格段にスムーズになりそうだ。

ICカードは入っていないが、以前書いたiPhone同士のデータ移行の簡単さ(iPhoneの故障・交換で感じた、設計思想の違い - Batayan’s Log)は、こうしたデータ移行のサービスを考えるにあたり、ぜひ参考にするべきだと思う。そのエントリーでは、壊れないようにつくることと、壊れてもいいように作るという設計思想の違いについて触れたが、それは端末の外見を含めたデザインにも及んでいるのではないだろうか。

最近、愛用していたデジカメが故障してしまったのだが、修理か買い替えか悩んでいて気づいたのは、伝統的ブランド(特にヨーロッパ)が、デザインの基本モチーフを変えずに大事にしていく理由である。

買い替えではなく修理を考えているのは、フラッシュのオンオフを、ボタン操作ではなく、発光部の物理的に出し入れして操作出来るところが気にいって買ったからだ。コンパクトデジカメで、そのようなデザインのものは限られている。幸い、同じデザインの後継機種があるので買い直しも選択出来るが、もしなかったら、一から選び直して、それがブランド(メーカー)スイッチするきっかけになるかもしれない。

それを考えると、ユーザーに受け入れられたデザインやモチーフの一貫性を維持していくことも、特に成熟市場においては、自社を選び続けてもらうために重要な要素となるし、これはデジカメだけの話ではない。伝統あるブランドが、デザインの一貫性を大事にする理由には、一度気に入ってくれたユーザーを買い替え後も満足させつづける、というきわめて実利的な計算も働いているのかもしれない、と思うようになった。

たまたま外見上のデザインの話になったが、デザインというのは、物理的なカタチだけのための言葉ではない。特に、日本でデザインというと、どうしても”モノの形”に限定して狭く解釈されてしまうことが多いのだが、”機種変更をしたくなるデザイン”を考えるなら、いかにして簡単に気分よく、新しい端末を手にしたワクワク感を維持したままデータ移行ができるのか、ソフトウェアや、さらには販売店の体制といった”モノ”ではない部分のデザインセンスも問われる。機種変更に限らず、こうした”モノ”以外のデザインを高めることが、今後の日本の”モノ作り”にとって、極めて重要な課題のはずだ。