スマートフォン/ITフォン+アプリで日本が巻き返す方法

スマートフォンでのアプリケーションストア利用、2013年までに4倍に急増--米調査 - builder by ZDNet Japan

スマートフォン/ITフォンを巡って、アプリケーションソフト(以下、アプリと略す)の動きが活発になってきた。Apple, Androidに続いて, Windows mobile, BlackberryPalmも、名称は様々だが、アプリを一元的に探してダウンロードできる(有料のものは購入できる)仕組みを登場させているか、準備している。

先行したAppleのAppストアは、すでに大きなお金が動くマーケットになっている。先日iPhone OS 3.0の発表の際にアップル社が明らかにしたデータによれば、iPod touchまで含めれば、Appストアのアプリが動く対象となるハードは、すでに3000万台が販売された大きなマーケット。仮に1台あたり平均100円(約1米ドル)のアプリが購入されただけでも、30億円の金が動く市場規模だ。

インドでのiPhone不振の原因が、端末価格が高いことにあるという分析があるが、ということは、裏返せば、平均的に言っても、可処分所得の高い層がiPhoneiPod touchのユーザーであると考えることができ、Appleはハードを売り切って終わりではない、新たな携帯端末ビジネスを生み出し、定着させたといえる。

この動きは、必ずしもキャリアの収入につながるとは限らない。ITフォンからインターネット電話の利用を可能にするSkypeアプリのように、むしろキャリアの収入を減らす方向に作用すると思われるものさえある。

このITフォンの動きは、現在PCにおいて進行している脱アプリの傾向と比べて、一見逆方向に向かっているように見える。

PCにおいては、個別のアプリを使うことより、汎用ブラウザで一元的に各種のサービスを受けられるようにするのがトレンドだ。Googleの文書サービスが、まだ不完全とは言え、少なくてもプライベートユース・ホームユースでのマイクロソフトのOfiiceソフト需要を奪っていくであろうと思われることが好例である。

一方で、ITフォンにもブラウザは搭載されているものの、現在は専用アプリを使うことの方が支持されているように見える。

ひとつの見方は、これはPCとITフォンの発達段階の違いと見ることだ。PCがたどってきた道を、ケータイも遅れて追いかけ出していると考えることができるかもしれない。実際にiPhone上で機能するwebアプリも多数ある。そうだとするなら、5年から10年経ったら、ケータイもアプリではなくブラウザで何でもこなすことが主流になるのだろうか。

もう一つの見方として、携帯端末の特殊性が、アプリの優位性を将来にわたって維持する方向に作用する可能性もあると思う。PCとくらべて、画面が小さくキーボード入力に制約があるという点、また安定してネットに常時接続できるのが当たり前になったPCと、圏外はもちろん、電波状況の不安定さを前提とせざるを得ない携帯端末では、将来においても差がある、という考え方にも分があるかと思われる。また、アプリの開発によって収益を得られる仕組みが完成されているので、webアプリよりも通常のアプリの方がビジネスの仕組みが整ってるという事情も、アプリの開発を促進する要因となり続けるかもしれない。もっとも、GoogleがPCにおいてやったように、ITフォンにおいてもwebアプリの利便性を高めて無料化する動きが出てくるなら、PCと同じ道をたどる可能性も否定できない。

日本のケータイの世界においては、iアプリウィジェットなどといったアプリの取り組みもあるが、技術的な汎用性・プラットフォームをまたいだ拡張性などの点はおいておくとしても、日本市場だけにむけて、そしてほぼ日本人だけが開発していると考えられる、こうしたアプリ群に長期的に見て勝ち目があるかは疑問だ。

また、こうした閉じたマーケットに向けて人的リソースを割くことの社会経済的な非合理性も気になる。せっかく人が時間を割くのであれば、日本にとどまらず、言語のローカライズをすることで世界中で利用され、販売される可能性があるアプリ開発をするべきではないだろうか。それが、日本に外からお金が入ってくること、つまり日本の経済を成長させる原動力になるはずだ。

たしかに、国内向けのアプリ開発内需を拡大しているという意味で経済効果があることは間違いないのだろうが、大きな視点で見ると、日本全体にもたらす経済効果と言う点では、長期の視点で見て損失につながりかねない危うさを感じる。この危うさは、アプリ開発にとどまらず、端末のハードの開発にも共通している問題点だ。

たしかに、日本のごく平均的なケータイユーザーにとって、ITフォンは使いにくくて不必要な道具なのかもしれない。そうであるなら、先進感を出すためには有益かもしれないが、実質的には大半があまり利用されずに終わっていると見られるこうした日本専用アプリ群の開発にキャリアやソフトウェアデベロッパーが資金を投じていくことが、果たして全体最適の観点で見て正しいのかどうか、ということは気になるところだ。
むしろ、日本のキャリアとしては、国内メーカーにも働きかけてAndroidをはじめとする国際的に共通する端末のラインナップを拡充し、そのアプリ開発を促進するような施策を実施していくことが理にかなった動きだと思うのだが、どうだろうか。

そうすれば、端末メーカーは、国内向けに開発した端末を海外でも販売して収益を得るチャンスがひろがるから、結果的に開発も促進され、端末のバリエーションも拡充しやすいはずだ。

また、日本のキャリアがこうした端末やアプリの開発に投資して、メーカーやアプリのデベロッパーが海外でも端末やアプリの販売で成果をあげたときに、一定の収益(投資の回収)を得られるようにするなら、直接キャリアとして海外に進出しなくても、海外マーケットの成長に応じて間接的ながら収益を得て成長していく、というシナリオも描ける(描けた)はずだし、そうなれば、一時期の日本がそうであったように、日本の端末が世界でもっとも先進的でありつづけられる(られた)のかもしれない。

今から方向転換をして間に合うかどうかはわからないが、こうした失地回復のシナリオを、キャリア・メーカー・ソフトウェアデベロッパーが共有してアクションを起こしていく、最後のチャンスにさしかかっているのではないか、という気がする。