中古(リサイクル)ケータイのインパクト

これまで、日本では動きが鈍かった中古(リサイクル)ケータイが、ビジネスになり始めているらしい。

ポイント早分かり!失敗しない中古携帯選び - 日経トレンディネット

販売奨励金仕組みがかわって”目先の”端末価格が上昇し、2年縛りの契約が主流になったことで、おいそれとは機種変更できなくなったことが背景にある。auはそうはいかないが、ドコモやソフトバンクならSIMカードを差し替えるだけで、一部の例外を除けば同一キャリア向けなら別機種でも使えてしまう。2年縛りの途中でケータイに保証対象外の故障が起きてしまった、といった場合に、リーズナブルな値段で機種変更ができるということになる。

なんらかの理由で手元のケータイを利用しなくなった場合、使用して日が浅い端末であれば、購入価格にくらべれば微々たるものだろうが、それでも何らかの値段で買い取ってもらえるということも、中古市場に商品が供給される理由になる。

こうしたケータイの中古市場を初めて見たのは、2003年にインドネシアに行った時のことだった。ジャカルタにあるビルのひとつが丸ごとケータイ関係の小さなショップで埋めつくされていた。そこではもちろん新品の端末も買えるのだが、中古品が古いものから新しいものまでズラリと揃っていて、NOKIAの普及機種などであれば、電池はもちろん、数字ボタンや液晶といったパーツに至るまでが売られていたのだ。

カネ持ちが新品を買ってそれまでの端末を売り、それを中流層が買ってそれまでの端末を売り、それを低所得層が買って...、というサイクルなのだろう。最後には、あちこちが故障した端末をパーツ交換しながら使い、それでもダメになったら、使えるパーツだけが取られて再利用され(販売され)て、端末は天寿を全うする。プリペイドの料金体系が普及していることとが相まって、これで相当安い費用でも携帯電話が利用できる。所得が低い層にもかなり携帯電話が普及している理由が、これで納得できた。

このようにして中古市場が活性化することは、ユーザーにとっては、必ずしも悪くない一面があるものの、キャリアやメーカーにとっては、あまり好ましいことではない。キャリアにしてみれば、新しいサービスの導入をしようにも、古いスペックの端末が多くなるほど立ち上がりが鈍くなるし、メーカーにしても、新製品の市場が縮小してしまうことにつながる。よほど新機種を欲しいと思わせるようなサービスや端末の性能・機能の進化がなければ買い替えが進まない。ハードとしての端末、ソフトとしてのアプリやコンテンツのいずれも、市場規模が小さくなってしまう。

もっとも日本の場合は、社会事情も異なるし、キャリアの料金施策も違うので、インドネシアと同じようなことにはならないだろう。むしろ、果たしてどこまで中古市場が広まるのか、ちょっと疑問でもある。

ひとつには、2年縛られている一般ユーザーが、今使っている端末を手放すのは購入から2年後以降だから、中古市場に出回る機種は2年以上前のものが主流になるだろうということ。そうなれば、電池もヘタっているだろうし、筐体にも無数の傷がついているのが普通だろう。それ以上に、2年もたてばキャリアが提供するサービス内容も変化していて、旧機種では使えないものも多くなることが、中古品のネックになっていくのではないだろうか。2年も使い込んだ端末であれば、買い取り価格も微々たるものだろうし、また、そういう端末を安いからといって中古で買って使う人も少ないだろう。

また、端末価格が高くなったといっても、実際には、旧機種の在庫品であれば新品端末(新古品)が実質0円とか1円で買えるようになってしまっている。

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こうした状況で、わざわざ他人が使ったケータイを、安いとはいえ数千円というお金を出して買う人がどれほどいるのか、というのも疑わしい。

もっとも、発売から半年もたたずに、新機種の端末が中古として売られるような事態がおこれば別かもしれない。昨年末以来、携帯販売店から最新の端末が盗られる事件が相次いだが、その盗品が中古市場で売られたり、あるいは、契約数稼ぎのために携帯販売店が架空の契約をして一定期間後に解約、その端末を裏で売却して現金化するといったことが増えれば、ユーザーにとって中古市場が魅力的になる可能性もあるが、どちらかといえば考えにくいケースだと思う。キャリアは端末の個体を把握できるから、こうした手法は足がつきやすいと思われ、おそらくそういう曰く付きの端末は海外に売られていくように思う。

ただし、日本の中古ケータイ市場の状況に一石を投じるかもしれないのは、iPhoneの中古品だ。iPhone3Gは、発売からまだ1年も経過していないので、中古市場でどのような動きがあるかが見えてくるのは、少なくても次期iPhoneの発売以降か、または現行のiPhone発売から2年が経過する来年の7月以降。その時、どのようなことが起きるのかは未知数ながら、ひょっとすると中古市場が成立する可能性はあるのかもしれない、と思う。

その理由のひとつは、iPhoneのOSアップデートとアプリによって、発売から相当期間が経過しても端末で出来ることの内容が古くなりにくい、ということ。中古品ではないものの、現行のiPhone3Gが昨年7月発売のものにも関わらず、引き続き現在でも売れ筋上位にランクインしている。これは、ソフトバンクの値引きキャンペーンに負うところも大きいと思うが、それにしても日本の携帯電話市場では、かつてないことだ。

また、アメリカでは、昨年7月のiPhone3G発売により中古の初代iPhoneが放出され、それも売れたという。iPhoneが多言語に対応していることから、アメリカから中米などの外国にも中古のiPhoneが流れた、という記事も、昨年の8−9月頃のアメリカのメディアで見かけように記憶している(残念ながら、探し出せなかった)。おそらく、何らかの方法でSIMロックを外すなどして売られたか、あるいはWiFiで使う”カメラのあるiPod touch”として売られたのだと推測される。

またiPhoneの場合、通常1年の保証期間に加え、有料のApplecareに入ればさらに1年の保証がある。その保証の対象にはバッテリーの容量低下も含まれており、新品の50%以下となった場合は無償交換されることになっている。これは、バッテリーだけが交換されるのではなく、端末全体が新品と交換されるということらしい*1。また、私自身も経験し、その顛末を過去に書いたが(iPhoneの故障・交換で感じた、設計思想の違い - Batayan’s Log)、保証期間中に何らかの不具合が起きて、それがユーザーの責任によるものでなければ、修理不能の場合、本体ごと新品に交換される。こうしたケースは、特に初期ロットの製品の場合、どうも珍しくもないようなのだ。こうして、来年の7月には、契約から2年は経っているが端末自体は新品に近いiPhone3Gが、相当数出回る可能性もあるのではないだろうか。

次期iPhoneがどのようなものになるかにもよるが、いずれにしてもいきなり現行のiPhone3GのサポートやOSのアップデートをアップルがやめてしまうとも考えにくい。そうなると、一部ハードに依存する部分では新iPhoneと比べて見劣りする部分は出るだろうが、和式ケータイの中古のような、決定的な古さとはくらべものにならないほど、中古のiPhoneの市場価値は高止まりするのかもしれない。

それは、とりもなおさず日本のiPhoneユーザーの拡大と、それにともなってiPhone向けのアプリビジネスのマーケットが拡大することも意味する。

この先、中古ケータイ市場がどのような動きをみせるのか。iPhoneがひとつの台風の目になりそうだ。

*1:iPhone3Gは、構造上バッテリーだけを交換することが出来ないようだ