組むべきは誰か ー NEC・日立・カシオの事業統合に思うこと

NEC・日立・カシオが、携帯電話事業を統合する、という報道があった。

http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200908290017a.nwc ほか

2010年春をめどに開発事業会社を一本化、販売上は3社それぞれのブランドを維持しつつ、開発を一本化することによって事業の採算性を改善しようということだ、という論調は各社ともかわらない。

しかし報道内容に関して気になるのは、

実現すれば国内販売台数のシェア(市場占有率)で約2割となり、首位のシャープ(約20%)に次ぐ規模に浮上する。

日立はKDDI(au)、カシオはauとソフトバンクモバイル、NECはNTTドコモとソフトバンクにそれぞれ端末を供給しており、販路拡大も期待できる。

という見方だ。

まず、統合によって、確かに国内としてはトップのシャープに迫るシェアをもつことにはなるが、それが世界的にみたときには、それでせいぜい世界シェアの1%を取れるかとれないか、のレベルでしかない、という現実である。記事にもあるように、国内市場が飽和して生き残りのためには海外展開が必須だというなら、この点は冷静にみておかなければならない。日本の携帯電話メーカーすべてを足し上げても、世界シェアの5%をとれるかとれないかの規模でしかないのだ。

また、この引用した一文には出ていないが、ドコモとソフトバンクモバイルは技術方式がW-CDMAで共通しているがauだけはCDMA2000である。大きく分けてこの2つの方式が日本国内においては混在し、統合する3社はそのどちらの方式にも端末を供給している。すでにカシオと日立は開発の事業統合をしているので、そこにNECが入ることによってスリム化されるのは、カシオがソフトバンクモバイルに向けてW-CDMA端末を出していた部分をNECW-CDMAの開発リソースと統合できるという部分にすぎない。NECはCDMA2000には関わってきていないからだ。こうした状況下での販路拡大とはどこにフォーカスした議論なのか、よくわからない。


そうなると、この3社が一緒になっただけでは、単にW-CDMAの事業規模が少し大きくなる程度で事業課題の解決にはほとんどつながらないのではないだろうか。

この解決のためにとりうる方策としては、

1)海外への事業展開
2)開発する技術方式の統合(一本化)

が考えられる。

1)については、記事中でも少し触れられている通り、国内上位メーカーにとってすら課題となっていて新たに海外市場参入あるいは再参入を模索している段階だが、なかなか平坦な道のりではない。すでにNOKIASAMSUNG、LGなどの強力で巨大なトップメーカーが押さえている市場に割って入っていくのが容易ではないことは、傍目からみていても容易に想像がつく。そこに今回統合する3社が参入するといっても、統合自体が海外参入にとって大きく有利な条件をもたらすわけではないだろう。

また2)については、国内でも世界全体でもW-CDMA方式が優勢であって*1、CDMA2000は北米と韓国にほぼ市場が限られるといってよい。その北米も、主要都市はすでにW-CDMAが圏内であるし*2CDMA2000でもSAMSUNG/LGがモトローラなどと共に端末市場を席巻している。他方、韓国はSAMSUNG/LGのお膝元であり、この市場に日本メーカーが割って入る余地はほぼゼロと考えられる。

そうであればW-CDMAに開発リソースを集中することが得策だとは思うが、そうなればカシオ日立のCDMA2000関係者そして国内2位のキャリアであるauとの関係もあって、簡単にW-CDMAへの一本化がすすむかどうかは疑問だ。一方、各社は次世代(3.9G/LTE)にむけた準備も進めていかなければならないわけで、この点においては3社がまとまってLTEに取り組めるというところが最大のメリットだろうか。幸い、日本のauアメリカのVERIZONなど現行のCDMA2000陣営のキャリアの多くも、次世代はW-CDMAの流れを汲むLTEに統合される見通しである。しかし、一気にLTEの普及が進むとも思えない状況の中、当面は3Gの開発体制を維持していかなければならず、その時に3Gの2方式に対応していくこと、そのうえCDMA2000に関しては国内以外の市場がなかなか見込めないことは、統合3社の足かせになっていくものと思われる。

このように考えると、1)にしても2)にしても、事業統合の趣旨を実現する方策として有効に機能するのかどうか少々疑問を感じざるを得ないし、もしそれが実現していくなら相当の摩擦が起きることは想像に難くない。将来をかけた生き残りのためには、この3社連合には摩擦を起こしてでも未来に向けた一歩を踏み出してほしいと願っている。

それにしても一つ残念に思うのは、NECがいま組むべきはこの2社だったのだろうか、ということだ。組むべきは強者同士だったのではないか。そのうえで、Limoファウンデーションのイニシアティブをとるなどして、W-CDMAの世界市場への進出に注力すべきではなかったのか。辛口な邪推をすれば、強者と組むよりも今回の3社連合の方がNECが主導権を握りやすいという事情もあったのではないかと勘ぐってしまう。

いずれにしても、日本メーカーが世界市場で一定の地位を確保すること。それが日本の携帯電話関係者すべてにとって、大きな意味で幸せになる方策ではないかと思い続けている。

*1:国内ではドコモ+ソフトバンクの計7割の回線がW-CDMA方式。世界でみるなら、アップル社がiPhoneの世界展開にあたってiPhone 3G/3GSにW-CDMAを採用した理由はここにあると考えるべきだろう。

*2:そのネットワーク環境下でiPhoneが使われている