Android Dev Phone1 を試用する(4) iPhoneとの比較(2)

間があいたが、前回に続いてiPhone 3G(以下は単にiPhoneと書く)とADP1の比較を続けて書いてみる。

■外部との接続端子
iPhoneではいわゆるドックコネクタとイヤホンマイクのジャックは独立にあるが、ADP1はミニUSBがひとつしかない。このため、例えば充電をしながら音楽を聴くことはiPhoneなら可能だが、ADP1の場合はできない。

また、iPhoneは音を聞くだけならば汎用品の3.5mmミニプラグを使ったヘッドホン・イヤホン類もそのまま使用できるが、ADP1の場合はミニUSBのため、専用品を使うか、汎用品を使おうとするとアダプターが必要になるだろう。

ドックコネクタAppleの独自仕様とはいえ、ipodと共通なので、ちょっとした電器店に行けば入手できる現状を考えれば、iPhoneの構成の方が使い勝手が良いと思う。

こういったハードの問題は、いくらソフトウェアのバージョンアップを待っても改善されない点であるということは、留意すべき点だと思う。

■同期の機能、プッシュの機能
iPhoneの場合は、iTunesを通じて”母艦”となるMacまたはPCとデータを同期させるという考え方、つまりiPhoneと1台のパソコンがセットとして存在する、という発想が設計の根底にある。購入して最初のアクティベーションも、まずはケーブルで母艦につなぐところから始まる。

これに対して、ADP1のアクティベーションにはPCやMacは不要だ。Googleのアカウント*1でログインすることでアクティベーションが終わる。PC/Macの存在を前提にしていない、というより、正確には”特定の”PC/Macの存在を前提にしていない、ということだろう。この部分は、結構根本的な両者の作られ方の思想の違いであると思う。iPhoneの母艦の発想は、かつての無線通信機能を持たないPDAの時代からのものだ。

iPhoneは有料のmobilemeに加入することで、mobilemeメールのほかカレンダーやアドレスブック(住所録)の同期が可能になるが、ADP1の場合は、無料でGMailをはじめとしたGoogleのサービスとの同期が可能になるだけでなく、メ−ルの新着通知がプッシュされてくる。

mobilemeはオンラインストーレージの機能などもあるので一概に比較しにくいところもあるが、プッシュの問題がどうやら未だに解決されていないことや、mobilemeの値段が年間約1万円ということを考えると、現時点においてはADP1の使い勝手とコストパフォーマンスに軍配が上がりそうだ。

app store と Android market
Android marketは現時点ではADP1ユーザーには有料アプリが提供されていないので、公平に比較しにくいところだ。また、1年にも満たない差とはいえ、iPhone向けのApp storeの充実度は現時点では圧倒的で、やはり提供されるアプリの質と量が今後の成否に直結することはいうまでもない。

その点はさて置いて、仕組みとしてのStoreとMarketの使い勝手に関していえば、どちらも五分五分ではないかと感じている。強いていうと、先に書いた同期の仕組みの関係で、iPhoneの場合はiTunes側でインストールした場合でもiPHone側でした場合でも、同期のときに母艦とiPhoneの間でアプリの転送をすることになるので、アプリが多く重くなるほどに同期の時間がかかるのは、やや難点だ。

一方、母艦との同期が前提なだけに、購入したアプリでも、iPhone上には残さずに母艦側だけに置いておく、といったことが出来る点は安心である。Androidで有料アプリを購入して、それを一時的に使わない時に、iPhoneのようにクラウド側に待避させておくことができるのかどうか。無駄な買い直しは避けたいというのがユーザーの心理だと思われるので、ここは気になるところだ。

■MAPのブックマーク、コンパスモード
旅行先で、iPhoneのマップ機能の便利さを痛感するのが、地図のブックマーク機能である。出発前にでも目的地の施設や店を探して予めブックマークしておけば、現地ではGPS機能で自分の現在地を把握しながら、目的地に向かえばよいのだ。ストリートマップに対応した場所なら、目的地周辺の様子を写真で確認していけばよいので、なおさら簡単に目的地にたどり着ける。


MacWorld会場のMoscone Centerの場所は、出発前にブックマークしておいた

この点、ADP1は、マップのブックマーク機能を探したが現状ではないらしい。見知らぬ場所での使い勝手を考えると、この機能が使えるようなソフトウェア的な対応がされるとは思うが、これがあるだけで、使い勝手はずいぶん違ってくる。

また、ADP1にしかないMAPのコンパスモードでの使用は、使っていて楽しかった。方向音痴な人には切実に便利な機能かもしれない。ただ、地図の読図になれている人には、それほど必要とされないかもしれない。

■バックグラウンド処理
バックグラウンド処理が可能なことも、現時点でADP1のiPhoneに対する優位性の一つだ。起動しておけるアプリが1つだけではないことは、確かに便利なのだが、一方で気になるのはバッテリーの消耗。17日に発表されるというiPhoneOS3.0では、iPhoneでもバックグラウンド処理に対応するという噂があるが、思わぬアプリが見えないところでバッテリーを食っている、ということになると、手放しで歓迎できない気もする。悩ましいところである。

■画面のタテヨコ表示切り替え
iPhoneは加速度センサーでの切り替えが基本となるのに対して、ADP1では、液晶をスライドしてキーボードを出した時にヨコ画面にするという切り替えが基本になっている。ADP1の出荷時の状態ではソフトキーボードがないので、キーボードを開かないと何も入力ができない点も含め、現状ではiPhoneが使いやすいが、これもソフトウェアのアップデートで解決できる範疇のことだろう。

■ハードの作り方に起因する問題
ADP1で気になったハードの設計の問題は、スピーカーの位置とカメラのレンズ保護の問題である。両者とも、ストレートな背面にあるため、机に置くとスピーカーの音が聞こえにくくなるし、カメラのレンズ部分が傷つかないかも心配になる。このためと思われる、小さな突起が背面のパネルにあるものの、これが本質的な問題の解決になっているとは思えない。iPhoneは、スピーカーは側面に位置し、カメラのレンズも背面のカーブにあって傷つきにくい位置に配置されている点は、よく考えられていると感じる。

SIMカード交換のしやすさ
iPhoneSIMカードは、専用のピンか、またはゼムクリップなどを穴に差し込まないとSIMのトレーが出てこないのに対し、ADP1では、背面のカバーを開けてバッテリーをはずせば、容易にSIM交換が可能だ。SIMロックフリー機の存在を意識しているかどうか、という差かもしれないが、プリペイドSIMを活用することを考えるなら、ADP1が便利ではある。
スクリーンショットの可否
細かいことになるが、iPhoneではホームボタンを押しながら電源ボタンを押すことでスクリーンショットが簡単に撮れるが、ADP1ではスクリーンショットが一般ユーザーには簡単にはできないらしいことも、違いとしてあげられる。これができるかどうかで、画面に表示された情報を簡単にメモできるかどうかが決定的に違う。いくら該当のサイトをブックマークしておいても、圏外であれば表示させることができないし、また同じサイトに何度もアクセスする手間と時間を考えると、必要な情報は、表示させた時点でさっとスクリーンショットを撮っておくのがベストである。

小さいこととはいえ、情報を扱うためにこそこうした端末を使うのだから、情報の取り扱いやすさの点では、iPhoneに一日の長があるといえる。


残念ながら、ADP1では音楽関係の機能を使っていないので、その部分の比較はできていないままだが、項目ごとの比較は以上のとおり。

ここまでは箇条書き的な羅列となったが、次稿では、まとめとしてオープンソースとしてのAndroidの可能性とiPhoneの対比について考えてみたいと思う。

*1:もちろん、このアカウントは予めPCなりMacなりで取得しておく必要はある。ただそのPC/Macは自分個人のものでなくても構わない。

機種変更したくなるためのデザイン

諸事情あって、そろそろ携帯電話(和式の方)を新しい機種にしなければならないのだが、それを考えると憂鬱、とまでいうと大げさだが、少なくても面倒くさいという気分になる。せっかく新しい携帯を買ったのに、どこか気分が高揚し切れない理由が、データを移すことの煩わしさ、という人は少なくないのではないだろうか。

microSDなどのメモリーカードが使えるようになってから、アドレス帳などのデータを移すことは格段に面倒が少なくなったのであまり気にならないのだが、問題はおサイフケータイなど、ICカード関係の移行だ。

http://www.nttdocomo.co.jp/service/osaifu_shopping/osaifu/about/ic/

ドコモの場合、こうしたデータの移行は、販売店にあるデータ移行用の機械(PC)を使って行うことになるのだが、前回の機種変更の時にはこの移行機が不安定で、何度もやり直しをしなければならなかった。手間がかかる煩わしさとともに、何度もやっているうちに、データが消えてしまうのではないかという不安もあった。

また、すべてのICカード関係のデータがこれで移行できる訳ではなく、たとえば、モバイルSuicaなどは、この操作とは別な手続きをしなければならない。

こうした手続きは、ICカード関係の利用サービスが増えるほど手間がかかることになる。ドコモのホームページに書いてあるほど”簡単”ではないと私は思うのだ。

日本の携帯電話端末の販売が激減しているのは、販売奨励金の廃止が大きな理由というのは間違いないだろうと思うのだが、こうした、買い替えに伴う機種変更の面倒臭さが、さらに販売不振を加速させている一要因になっている気がする。MNPにしても、MNP自体の手続きに加え、例えばauおサイフケータイからドコモのおサイフケータイにデータを移行する手続きがどうなるのだろうと思うと、考えただけで気が進まなくなってしまい、ちょっと魅力的な機種やサービス・料金設定があるくらいでは、私は利用したいという気にならない。

新しい端末をどう魅力的に仕立てるかというところにばかり目がいっている気がするのだけれど、実はこうした地道な部分の使い勝手・サービスの内容が、ユーザーの機種変更の気持ちを大きく後押しするはずではないかと思うし、成熟期に入って久しい日本の携帯電話(端末)市場で、まず改善するべきはこうした部分だと思うのだ。せめて、同一キャリアの同一メーカーの機種同士なら、簡単にデータ移行が完了するという仕組みを作れないのだろうか。そうすれば、キャリアにとってもメーカーにとっても、ユーザーをつなぎ止めておく手段・機種変更を促進する手段としてプラスに働くのに、と思う。

一つの可能性としては、SIMカード(USIMカード)に、こうしたデータを格納してしまうという方法もあるのかもしれない。韓国では、ポイントカードの記録データをSIMカードに格納して、ポイントカードを持っていなくても携帯電話さえもっていればOKというサービスが開始されるそうだ。

Nectar Card in your mobile? | Korean Insight

iPhoneでもおサイフケータイ機能を利用するために、SIMカードFelicaチップを内蔵して実現できないか、ソフトバンクが検討しているという噂が流れたことがあったが、もしこれが可能なら、ICカード関係のデータ移行は、キャリア変更を伴わなければ格段にスムーズになりそうだ。

ICカードは入っていないが、以前書いたiPhone同士のデータ移行の簡単さ(iPhoneの故障・交換で感じた、設計思想の違い - Batayan’s Log)は、こうしたデータ移行のサービスを考えるにあたり、ぜひ参考にするべきだと思う。そのエントリーでは、壊れないようにつくることと、壊れてもいいように作るという設計思想の違いについて触れたが、それは端末の外見を含めたデザインにも及んでいるのではないだろうか。

最近、愛用していたデジカメが故障してしまったのだが、修理か買い替えか悩んでいて気づいたのは、伝統的ブランド(特にヨーロッパ)が、デザインの基本モチーフを変えずに大事にしていく理由である。

買い替えではなく修理を考えているのは、フラッシュのオンオフを、ボタン操作ではなく、発光部の物理的に出し入れして操作出来るところが気にいって買ったからだ。コンパクトデジカメで、そのようなデザインのものは限られている。幸い、同じデザインの後継機種があるので買い直しも選択出来るが、もしなかったら、一から選び直して、それがブランド(メーカー)スイッチするきっかけになるかもしれない。

それを考えると、ユーザーに受け入れられたデザインやモチーフの一貫性を維持していくことも、特に成熟市場においては、自社を選び続けてもらうために重要な要素となるし、これはデジカメだけの話ではない。伝統あるブランドが、デザインの一貫性を大事にする理由には、一度気に入ってくれたユーザーを買い替え後も満足させつづける、というきわめて実利的な計算も働いているのかもしれない、と思うようになった。

たまたま外見上のデザインの話になったが、デザインというのは、物理的なカタチだけのための言葉ではない。特に、日本でデザインというと、どうしても”モノの形”に限定して狭く解釈されてしまうことが多いのだが、”機種変更をしたくなるデザイン”を考えるなら、いかにして簡単に気分よく、新しい端末を手にしたワクワク感を維持したままデータ移行ができるのか、ソフトウェアや、さらには販売店の体制といった”モノ”ではない部分のデザインセンスも問われる。機種変更に限らず、こうした”モノ”以外のデザインを高めることが、今後の日本の”モノ作り”にとって、極めて重要な課題のはずだ。

アメリカで上昇するスマートフォン比率と、低下する端末価格

アメリカのNPDグループの調査によると、08年第4四半期の携帯端末におけるスマートフォンの販売台数比率は、前年同期12%からほぼ倍増の23%と、売れた端末の4台に1台はスマートフォン、という状況になった。第3四半期*1につづいて、スマートフォン優勢の傾向が定着してきていると言えるのではないだろうか。

スマートフォン販売台数、米国で記録的な伸び--NPD調査 - CNET Japan
THE NPD GROUP: DESPITE RECESSION, U.S. SMARTPHONE MARKET IS GROWING

同時に、店頭での販売価格の平均は167ドルと、前年の216ドルから23%低下している。

この台数比率の上昇と販売価格の下落には、iPhone 3Gや、T-mobileのG1、Blackberry Stormなどの影響が大きい、というのが調査元の分析だ。

ガートナーの調査によれば、全世界では第4四半期の携帯電話販売台数が5%減となっているなかで、米国の経済状況を考えれば、この伸び率は特筆に値するものだろう。一方で、販売奨励金廃止によって、日本の携帯電話市場は、世界平均を遥かに下回る縮小に見舞われた。

Cellular-News

ただ、以前のエントリーでも仮説として書いたが、逆説的ながら今の経済状況を踏まえればこそ、アメリカのこうした傾向には納得が行く。いくつかの要因があると思うが、NPDが分析している、iPhone 3Gが初代の399ドル〜から一気に199ドル〜に値下げして販売されたことが競合する商品の価格設定にも影響したことに加えて、

・初代を含むiPhoneの登場によって、スマートフォンが、ビジネス専用のツールではなく、プライベートユースも含め汎用性を備えたカテゴリーの商品にポジションを移したこと。

・ビジネスユーザーに高価格帯の端末を買ってもらうことが期待しにくい中で、一般ユーザーにもスマートフォンを買ってもらいたいという動機がメーカー側に働いたと推測されること。

・キャリアとしても、販売奨励金の持ち出しはあるが、定額制にせよ従量制にせよデータ通信の利用分だけ増収が見込め、契約期間中それが継続されるスマートフォンユーザーの獲得が、経営の安定に寄与すると考えられたこと。

・冒頭の調査によると、すでに2/3のスマートフォンが3G回線を利用し、接続スピードを含めて自宅のPCに近い使い方が出来るスマートフォンが、ユーザーにとって、PCと携帯端末とを同時にリプレースでき、しかも値段もこなれた存在と映ったのだと推測されること*2

といったことが、スマートフォンの普及・浸透につながったのではないかと考えられる。

実際に、スマートフォン価格の下落は、アメリカに限らず著しい。昨秋にヨーロッパで発売され、アメリカでは2月後半に発売されたばかりのNOKIA5800は、スペインの携帯販売店店頭では、契約しばりはあるものの、すでに0ユーロだった。


0ユーロのシールが貼られたNOKIA 5800(スペイン・バルセロナにて)

また、先日のエントリーでも触れたように、イギリスでは、オレンジが、ブラックベリー端末を、契約期間の縛りがないプリペイドユーザーにも販売しはじめている。

実際には、これらの価格は販売奨励金を織り込んだものなので、契約に縛られずに奨励金なしで購入すると、はるかに高い。それにしても、たとえば、いわゆるグーグルフォンであるT-mobileのG1は契約なしでも399ドルで購入できるし、iPhone 3Gにしても、日本で16GBモデルを一括で支払った価格は手元のレシートの記載で87,840円。他のアップル社製品のアメリカと日本での価格差を考慮すると*3、米ドルベースなら750ドル程度となり、これをさらに現在の為替レートで割り戻すなら7万円前後ということになるだろう。

この約400ドルから700ドル前後という価格帯は、ドコモの新発売機種の店頭価格が5−6万円程度だから、現在日本で売られている端末の店頭価格と同じレンジに入ってくるし、むしろ日本の端末価格の方が、世界で販売されているスマートフォン端末の価格よりも高い傾向にあると言えるだろう。

しかし、中身はともかく、見かけとしては、日本の携帯端末は、海外のユーザーから見れば電話とメールと若干のウェブが使えるだけのコモディティ化した端末にしか見えないはずだ。これを、そのまま海外に持っていったとしても、せいぜい100ドル/ユーロ前後の端末という見られ方になってしまうだろう。

もちろん,実際の中身は、GPSおサイフケータイ、いわゆるフルブラウザなども搭載した高機能端末であり、性能のポテンシャルは、日本の端末のほうがスマートフォン一般よりも高いのかもしれない。ただ、それを一般のユーザーが活かしきれるユーザビリティを備えているのか、また所有する喜びを与えているのか、という点は、よく検討する必要がある。

日本の端末メーカーの課題に書いたことの繰り返しになるが、たとえは悪いかもしれないが、高級車のボディに大衆車のエンジンを積んだクルマと、大衆車のボディに高級車のエンジンを積んだクルマが同じ値段だとしたら、どちらを買う人が多いだろうか、ということだ。

これから、日本の携帯端末メーカーが海外でも販売しようとする時、急速に変化しているこうした海外市場の動向は踏まえておく必要があることは当然だ。

また、日本で携帯端末の販売台数が大幅な減少傾向にあるということは、販売奨励金の問題を差し引いても、日本のユーザーが、いま売られている端末に買い換えるだけの価値を見出せていない、と理解するべきだろう。アメリカでは、経済状況にもかかわらずスマートフォンの販売が伸びているのだし、もともと頻繁に機種変更してきた日本のユーザーには、価格と価値が見合うなら新しい端末を手にしたいという潜在的な欲求は今でも高いだろうと推測される。

しばらくは続くとみられる低調な経済状況のなかで、日本でも世界でも、ユーザーは、価格に見合う価値があるかどうか、厳しい目で商品を選ぶ傾向が続くものと考えられる。そのとき、ユーザーにとっての価値とは、中身の部分、クルマのたとえで言えばエンジンの部分とは限らない。むしろ、エンジンは少々非力でも、運転しやすくてボディの見栄えがするクルマに、より大きな価値を感じるのかもしれない。

日本の携帯端末は、「エンジンは立派だが、運転しにくく、乗っていてもカッコいいと思えないクルマ」になっていないだろうか。

*1:第3四半期についての過去のエントリーはこちら

*2:過去のエントリーで記事を紹介したが、実際に私が今年1月にサンフランシスコのat&tショップで目撃したiPhone 3Gの購入者は、バギーに赤ん坊を乗せた平均的な身なりの夫婦など、ごく普通の人たちだった。

*3:日本の方が為替レートよりも割高な設定になっている。たとえば、アメリカで599ドルのMac miniは日本では69,800円と、1ドル約117円の換算になる。

プリペイドSIMで、お手頃価格の海外モバイルネットを使う方法

過去のエントリーでも断片的に触れてきたが(アメリカ篇スペイン/イギリス篇)、SIMロックフリー(SIMアンロック)の端末に、旅先で購入するプリペイドSIMカードを刺して、モバイルでネットを使うことがこれほど便利なものとは思っていなかった。


手元にあるSIMカード


特に、メールやwebはもちろんのこと、グーグルマップやストリートビュー、そしてTwitterのクライアントアプリを使いながらの旅は、これまでと全く違うといってもいい”景色”が見えてくる。しかも、日本のキャリアのSIMカードを国際ローミング使用するのとは比べ物にならないほど、手頃な価格でモバイルネットを使える国も少なくない。ローミングより価格が手頃なだけでなく、プリペイドなので、知らないうちに高額な利用料金になるという心配がないため、安心してモバイルネットを利用できるというメリットは大きい。

海外で携帯電話を通話に利用することは、ここしばらくの間に日本人の間でも急速に一般的になったと思うが、言葉の問題もあって、勤務先や自宅にかけたり、同行者同士の連絡を取ったりするという使い方がほとんどではないかと思う。

一方、モバイルでネットがリーズナブルな値段で使えるなら、現地語での会話は難しい人でも、単語を自分のペースで拾い読みしながらwebを見てもいいし、地図やストリートビューなど、言語に依存しない方法で現地の情報をその場で入手することも可能になる。もちろん、日本語のサイトで旅行先の情報を収集するにも便利だ。そう考えると、旅行者にとって本当に必要性が高いのは、通話ではなくモバイルネットなのだ、ということに気づく。

とはいえ、まだ日本ではSIMロックフリーの端末が一般的ではないし、海外でSIMを買うにもどうやっていいか分からない人が多いのではないかと思うので、限られた範囲ながら自分自身で試した経験をまとめて、参考にして頂けるようにしたいと思う。


■準備するもの

  1. SIMロックフリーの携帯電話端末(スマートフォンなど、モバイルネット可能なもの)+取扱説明書
  2. ・現地で利用するキャリアのプリペイドSIM情報(取り扱い有無、料金プランなど)
  3. ・利用するキャリアのAPN(Access Point Name)情報*1

とりあえず、旅に出る前に上記の3つがあれば、渡航先でSIMを購入してモバイルからネットを使うことが可能だ。

携帯電話端末は、少し値段は高いけれど、iPhone 3GAndroid G1などのSIMロックフリー版が入手できるとベスト。これらの端末なら、ストリートビューGoogleマップといったGoogleのサービスを利用しやすい。日本であらかじめ購入して持っていくのが現地での時間の節約になると思うが、値段や入手のしやすさでメリットがある場合は現地で買うことも考えられる。その場合は、日本出発前に販売店の所在地や電話番号・営業時間などを調べておくとよい。

注意したいのは、もともとSIMロックフリーで出荷された端末と、ロックされていたものを後からロック解除して売られているものとがあること。慣れないうちは、できれば出荷時からSIMロックフリーの端末を入手する方が安心だと思う。また、利用する端末が、日本語と渡航先言語の表示(受信)・入力(送信)に対応しているか、あるいは購入後に対応させることが可能かどうかも、予め確認したうえで購入したい。

また、端末が対応している通信方式にも注意が必要だ。非常に大ざっぱな言い方になるが、日本で主流の3Gと同じ方式が使えるのは、まだ欧米の主要都市圏に限られている。韓国と北米ではCDMAが中心、欧州・南米・アジア・アフリカではGSMが中心で、さらに使用されている周波数もいくつかある。渡航先の通信方式と周波数に自分の端末が対応しているか、事前に確認しておきたい*2。通信方式とカバーエリアについては、利用したいキャリアのwebサイトを見れば情報が出ていることが多い。

さらに、現地にどんなキャリアがあり、プリペイドSIMの取扱いがあるか、ある場合の料金プランや、取扱店の所在地、端末に設定しなければならないAPN情報は、下記のサイトなど、ネットを検索して予め調べておく。ネットの情報が古い場合もあるので、いくつかの情報源を突き合わせておくと安心だ*3

各国のキャリアの情報については、完全には網羅されてはいないが、下記のサイトは比較的よくまとまっていると思う。(いずれも英語サイト)

プリペイドSIM情報全般
http://prepaid-wireless-internet-access.wetpaint.com/

APN情報
http://www.modmygphone.com/wiki/index.php/Carrier_APN_Settings


また、利用する予定のキャリアのwebページで、あらかじめプリペイドSIMの情報をみておき、言語の問題があると予想される場合は該当ページをプリンしておく。それを渡せば、言葉が通じなくても自分が購入したいSIMカードや料金のプランを理解してもらえるようにしておくと現地での購入がスムーズになると思う。キャリアによってはその国の言葉のサイトだけで、英語のサイトすらない場合がある。私自身、スペインのモビスター(テレフォニカ)もスペイン語のサイトしかなかったので、スペインに出発する前に、自分が購入したいSIMと料金プランをweb翻訳しながら探し出して、該当ページのプリントを持参した。


■現地でのSIM購入

店頭に持参するとよいものは、下記のとおり。

  1. ・端末+取扱説明書
  2. ・クレジットカード
  3. ・パスポート
  4. ・購入希望商品/プランのプリントアウト
  5. ・滞在先ホテルの住所・電話番号

上記のすべてが必要になるとは限らないが、無駄足を避けるためにもこれらをすべて持参することがおすすめだ。

クレジットカードは、店頭で登録してくれる場合は、あとから自分で登録しなくても携帯電話から指定された番号にダイヤルして操作するだけで追加のチャージが可能になるので、可能なら登録してしまうとよい。もちろん、店頭の支払いだけなら現金でも大丈夫。

パスポートをチェックされるか、滞在先(ホテル)の情報を聞かれるかどうかは、国とキャリアによりさまざまだった。パスポートのチェックも、見せればよいだけのところからコピーをとられるところまで、対応はまちまちだ。また、居住者でないとSIMを購入できない国やキャリアもあるらしいので、その意味でも事前情報の収集は大切だ。

大まかに言って、SIMカード自体の価格とチャージ金額が別々になっている場合と、初回チャージ金額にカードの値段が含まれている場合とがある。また、初回のチャージ額が予め設定されている場合と、自分の希望額をチャージできる場合がある。

購入自体は簡単だが、初回にチャージする金額を聞かれたり、またいくつかの料金プランがある場合はどのプランにするか聞かれるので、店に行く前に決めておくとよい。アメリカのat&tのように、一定額を先に支払うことでデータ通信が割安になるプランがあったりもする。また、実際に試したことはまだないが、webを見ていると、キャリアによってはテザリングがOKなプランもあるようだ。通信スピードの問題はあるかもしれないが、テザリングが利用できるならホテルの有料ネット接続を利用するより安くすむかもしれない。


■端末の設定

SIMを受け取ったら端末に装着して、予め調べておいたAPNを設定する。大きな店やキャリアの直営店だと、困ったときに店員にヘルプしてもらえる可能性が期待できるし、非英語圏でも英語を理解してくれる店員がいる確率も高まるので、SIMはなるべく大きめの店で買って、その場で設定することをおすすめする。

なお、SIMには予めPIN(暗証番号)が設定されている場合とそうでない場合がある。設定されている場合には、PINがSIMカードと一緒に書かれているので*4、端末に電源を入れるたびに、この番号を入力する。

購入してから回線が開通するまでには、数十分程度の時間がかかることもあるので、それも計算に入れておきたい。

APNの設定が完了して回線が開通すれば、モバイルネットの利用が可能になる。


■追加チャージ

チャージについては、国やキャリアによって”トップアップ”と言われるなど用語はまちまちだが、ここでは統一してチャージと呼ぶことにする。

追加チャージする方法は、いくつかあるのが一般的で、代表的には以下の方法がある。

  1. ・webからクレジットカード使ったチャージ
  2. ・店頭でのチャージ
  3. ・携帯端末から、予め登録したクレジットカードを使ったチャージ

なお、クレジットカードを使ったチャージでは、使用できるカードの種類やカードの発行国が限定されている場合があるようだ*5。自分のカードが使えるか、時間があるうちに試しておくとよいと思う。

少し慣れは必要だが、端末から指定の電話番号にかけて音声応答システムでチャージする方法は、残額がゼロになってもその場でチャージできるので便利だった。

使わない残額が出る無駄をなるべく少なくするためには、一度に多額のチャージをするよりも、こまめに一定額のチャージを繰り返すほうがよいと思う。


ローミングについて

プリペイドSIMであっても、購入国外でのローミング利用が可能な場合がある。料金プランの設定によっては、実際に利用する国のキャリアのSIMを購入するよりも、他国で購入・チャージしたSIMを利用する方が有利なケースも考えられるので、予め比較しておくとよいと思う。たとえばA国を経由してB国に行く、といった場合、A国で購入したSIMをB国でもローミング使用した方が、B国で改めてSIMを購入するよりも使い勝手が良い、というケースもありそうだ。

その場合、B国に行ってから残額が無くなっても困らないように、購入国外から追加チャージをする方法を調べておくか、購入国に滞在中に十分なチャージをしておくなどの注意が必要だ。


■SIMの有効期限について

チャージを繰り返して使いつづけていないと、割り当てられた電話番号が使えなくなったりSIMカード自体が無効になる。その期限はキャリアによってもバラバラだが、大体は数ヶ月から1年くらい。モバイルネットをメインに使うなら、電話番号が変わっても影響はほとんどないと思うので、頻繁に訪問する国でなければ、滞在中に残額をなるべく使いきってしまい、電話番号は変わってしまうが、訪問1回ごとにSIMを買いなおすと考えておくほうがよいだろう。



以上、まだまだ十分な情報ではないが、今の時点で書ける限りの情報を書いてみた。誤りがあるかもしれない点は先にお詫びし、正しい情報をお持ちの方に教えて頂けたらと思う。また文中で紹介した情報のまとめサイトなどにもご自身の経験と知識を反映・共有して頂けると素晴らしい。

慣れるまではちょっと億劫かもしれないけれど、実際に使うとその便利さを実感するのが、プリペイドSIMを使った海外でのモバイルネットだと思う。重要なポイントは、出発前に十分な準備と情報収集をしておくこと。チャンスがあったら、ぜひプリペイドSIMでのモバイルネット利用を試してみて頂きたいと思っている。

*1:データ通信を利用するために必要な端末の設定情報。

*2:ちなみにiPhone3GとAndroid G1は、GSMの4周波数と3Gに対応しているので、SIMロックがかかっていなければCDMA地域以外はこれ1台でOK。

*3:日本の情報を検索してみたら、ボーダフォンの情報が出てきたりした。

*4:コインで削るスクラッチカード形式になっていることが多い。

*5:たとえば、イギリスのvodafone UKのサイトで日本で発行されたクレジットカードからの追加チャージを試したが、はねられてしまった。

いま、日本の携帯電話を取り巻く3つの課題

ロンドンからの機内で、日本の新聞を手にしてしまったことがいけなかったのかもしれない。そこには、こんな東京都教育委員会の広告が載っていた。(機内でiPhoneを使って撮影した*1ものなので、写真が相当ひどいものであることはお許しいただきたい。)

これを見た瞬間に私が思ったことは、この広告のキャッチコピーになぞらえるなら「本当に必要ないですか?子供にケータイ教育。」ということだ。

バルセロナでモバイルワールドコングレス(MWC)の会場を歩いて以降、もやもやと感じていた日本の携帯電話をとりまく課題が、この広告に対する何ともいえない納得のいかなさに触発されて、教育の問題に限らず整理できたので、書き留めておきたい。


バルセロナ、そしてその帰路に立ち寄ったロンドンの感想として、ますます日本のケータイを取り巻く状況のすべてと、世界の距離はどんどん開いていっているのではないか、という懸念を強くした。それは、技術の問題というよりは、マーケットをどこにどう作るのか、戦いの土俵はどこなのか、という、むしろ(人的なという意味で)政治的な面で、日本のケータイ業界が戦いにくい場所にどんどん土俵が移っていってしまっているのではないか、という懸念である。

これは、”ガラパゴス”といわれた状況がどちらかというと技術やハードの側面、いいかえれば理系の領域に主にフォーカスされて言われたように私は感じているのだが、それとはちがって、文系の領域での課題がメインになる。

以下、端末メーカー、キャリア、ユーザーの3つのプレーヤーそれぞれの課題に分けて考えてみたい。


1)端末メーカーの課題

MWCの会場に来ている人は基本的に業界関係者で一般ユーザーは来場しないため、数年前から、かなりの人がブラックベリーか、Windows Mobileなどのスマートフォンを手にしていることが多かった。携帯業界関係者に限らず欧米のビジネスマン、特に上層部の人間ほどそうだ。今年もその傾向は変わらないが、この傾向が一般のユーザーに拡大していきそうな兆候がある。ロンドンでは、キャリアのオレンジが、プリペイドユーザーにもブラックベリーを提供し始めていて、バスの車体や地下鉄の駅構内で広告キャンペーンを展開しているのを見かけた。

経済減速の影響を受け、スマートフォンユーザーを一般ユーザーにも拡大したいというメーカーの意向と、iPhoneによってビジネスではなくエンターテイメントの面でもスマートフォンが優れたツールであるという認識が醸成されつつあるという社会状況が、多くの一般ユーザーを、従来型の端末からスマートフォンに移行させる契機となる可能性はある。

オレンジの広告を見てもわかる通り、液晶画面に入っているロゴはFacebookを筆頭に、ビジネス向けのサービスではなく、プライベート向けのもの、ちょっと前まではPCで使われていたものばかりだ。それをスマートフォンで使いましょう、という提案なのである。

そう考えると、いわば従来型端末の最高峰として、日本の一般的な端末は、このままでは、そもそも戦いの土俵を失うことにならないだろうか。確かに技術力もあり性能も高いが、スマートフォンが備えているようなインターネットとの親和性からは遠い。クルマで例えるなら、日本の端末はポルシェのエンジンを積んだカローラだが、これからの一般ユーザーが求めるのは、カローラのエンジンを積んだポルシェになってくるのかもしれない。

そういう風向きの変化が定着するのだとしたら、日本の端末をアレンジしても海外では売れないことになる。そうなったら端末の進化の方向を、現在の日本市場向けとは違えなければならない、ということに、かなり自覚的であることが求められるだろう。

メーカーは、理系の側面=エンジン(技術)にばかり目がいっている印象があるが、ユーザーにとっては、日本メーカーの”エンジン”が優秀であることは暗黙の前提なのであり、大衆車カローラの堅実な印象よりも、ポルシェの車体の優美さ、文系的なセンスが欲しい段階にきているように思うのだ。


2)キャリアの課題

先月のアメリカ出張以来、現地キャリアのプリペイドSIMカードを使い、アンドロイド機(ADP1)でメールやwebはもちろん、地図やストリートビューTwitterなどのデータ通信サービスを活用することで、現地の滞在時間を一層効率的に活かすことが出来るようになっている、という実感がある。今回も、スペイン、イギリスでSIMを購入して試用してみた。

そうやってみて気づくのは、アメリカ、スペイン、イギリスと、それぞれのキャリアでサービスや料金は違うものの、いずれもSIMの入手は旅行者でも簡単で、料金も安く、またチャージも簡単、きわめて使い勝手がよい、ということ。大雑把にいって、1日あたり最大で1000円もあれば、上に書いたようなデータ通信系のサービスを存分に、国やキャリアによっては無制限に使えてしまうということなのだ。1週間滞在したとしても、トータルの通信コストは、データに限ればまず1万円までに達しないだろう。チャージも、電話、web、商店でのカード購入、ケータイショップ店頭、と様々な手段があり、そのときのユーザーの状況に応じて最適なものを選択することができる。

そのうえ、例えばイギリスのボーダフォンは、プリペイドSIMカードを日本でもソフトバンクローミングで使うことができて、その場合、データ通信料の上限額は、1日5ポンド(現在のレートで700円弱)という安さなのだ。海外キャリアは、プリペイドユーザーを満足させて使い続けさせる商品とサービスをちゃんと用意している。

犯罪に利用されるから、というような口実で、日本のプリペイドケータイサービスは衰弱してしまっているが、プリペイドケータイは、後述する子供のケータイ教育問題を解決する一助となる可能性を秘めているし、数は少ないかもしれないが、将来増えてくるであろうスマートフォンを旅行ガイド代わりに旅する人にも使ってもらえ、キャリアにとってプラスの収入になるはずだ。また、労働力として海外の人を日本が多数受け入れるようなことになったら、そうした人々をユーザーとして取り込むには、プリペイドサービスが最も適しているだろう。

将来にわたって、日本の市場が変化しない保証はない。国内キャリア同士の競争に終始しがちだが、海外キャリアがどのようなビジネスをしているのかにも目を向けておくべきだろうし、そこに、国内の競争を有利に進めるヒントだってあるはずなのだ。


3)ユーザーの課題

冒頭にあげた広告の、具体的な教育委員会の提言は、下の通りだ。

ここに書いてあることが、その通りに実現するとどうなるか。こどもたちが”おとな”に仲間入りしたとたんに、ケータイの世界に免疫も土地勘もないままに放り出される、ということだ。今の子供たちが、将来ケータイのない世界で生きていけるのならよいが、そういう未来を想像できるだろうか。

そもそも、ここに書かれていること自体が矛盾しているのだ。子供が”自分で自分の身を守る力をつける”には、ケータイを使わせなければならないのに、禁止しろという。無菌室に放り込んでおいて免疫をつけろと言っている矛盾に気がついていないのだろうか。


この問題については、大阪府でケータイ禁止令が出たときにも言及した。

麻薬のように、害悪しかないものなら徹底的に禁止するべきだろうが、ケータイは毒にも薬にもなる。むしろ、日々の生活を豊かに生きていくためのツールにするべき存在だろう。そうなら、小さいうちから適切な使い方を教育して、有効に生かしていくべきものなのではないか。それは、子供たちに刃物の使い方を教えることと似ていると思う。包丁で人を殺す輩もいるが、だからといって包丁を子供に使わせるのを禁止しようという議論は聞いたことがない。慎重に使い方を教えるのが、親であり学校の授業である。それと同じことをケータイではやろうとしないのは、大人の教育責任の放棄であり、教育することを業とするはずの教育委員会が写真のような広告をするのは、自らの存在意義を否定するに等しいとも思うのだが、どうだろうか。

また、行政が生活に根付いたものを禁止したり制限したりすると思わぬ副作用を生むことは、古今東西の歴史が証明するところだ*2。それに、一大産業となった携帯電話業界に対して、こうした広告は官製不況をもたらす可能性があることにも注意したい。この広告の費用は、企業や個人の税金から出ているのであり、その税金は不況によって少なくなるのだということも指摘しておく。

子供たちにプリペイドのケータイを与え、小遣いの中からチャージして使わせれば、自ずと使い過ぎに注意することになる。

大人たちが、子供に夜道の危険性を教えるようにケータイの世界の危ない場所を教え、暗い道をパトロールするようにケータイの世界の子供たちの居場所に目を配る。そして、ケータイのすばらしい使い方、知的好奇心を高めるようなケータイサイトの存在を教えていくなら、ケータイの世界は、すばらしさも危なさも、現実の世界と同じになるはずだろう。

本当に日本の子供たちの将来を考えるなら、彼らに世界の同年代の子供たちと同じかそれ以上の教育を与えていく必要がある。そうであるなら、ケータイを教育の敵にしていては遅れをとる可能性が高い。

フィルタリングよりもプリペイドケータイを充実させること、1人1台のパソコンと同じ使い方ができるスマートフォンを、教育的配慮のもとに使わせること。それが、今の時点で考えうる、子供とケータイの教育的配慮にもとづいた関係であり、これはユーザーである私たち全体がどのような世論を形成するか、という問題なのである。

*1:もちろん、機内モードで使用。

*2:以前のエントリーにも書いたが、アメリカの禁酒法がマフィアの暗躍を招き、都立高校の学校群制度による受験競争緩和策が都立高校に地盤沈下と私立高校の受験競争激化を招いた。

Android Dev Phone1 を試用する(3) iPhoneとの比較(1)

前2回に書いた日本とアメリカでの試用の結果をふまえて、個人的な経験の範囲ながら、iPhone3G(以下、単にiPhoneと書く)とくらべてどうかという視点でAndroid Dev Phone1(ADP1)を評価してみたい。*1


●手のなじみ具合

ADP1は、厚みはiPhoneよりもあるものの幅は若干スリムなので、手に持ったときのなじみということでいうと、私にはどちらも甲乙つけがたい気がした。すくなくても、なじみの悪い形状ではない。もちろん、これは感じ方に個人差のあるところだろう。

ただ、ADP1の場合、横に持ってキーボードを使う場合、液晶部分だけが開いて、右手側のボタン類がある部分は液晶を閉じたときの厚みのままなので、右手でキーを打つ時に、この厚みを邪魔に感じることがあった。一方で、この厚みのある部分は本体全体をホールドするためのグリップに好都合でもあるので、一概に悪い面ばかりとも言えない。

現状では、ADP1にはソフトキーボードがないので、文字入力には必ず液晶を開いてハードのキーボードを露出させる必要がある分だけ、iPhoneよりもちょっと煩わしいというか、手間がかかるようには感じた。


●カメラの性能、使い勝手

ADP1の方がiPhoneのカメラよりも画素数は高いが、撮れた写真の絵作りという点でいうと、iPhoneの方が優れているように思う。特に暗いところでも明るく写せるという点でiPhoneの方が画素数は低いながらもADP1のカメラで撮るよりも絵としてまとまった写真が撮れるという印象だ。

暗い屋外で同一の条件で撮った写真を、加工をせずにあげておく。


ADP1で撮影



iPhoneで撮影


シャッターボタンは、ADP1では横長に構えたときに本体右上の位置に物理的なボタンがあり、一般的なカメラと同じ使い勝手となっている。iPhoneのソフトボタンとどちらがいいかは判断が分かれるところだろう。ADP1のボタンなら、手袋などをしていてもシャッターを切れるメリットがある一方、iPhoneのボタンは、押さえた指を横にスライドするだけでシャッターを切ることができるので、シャッターを押すことによるブレが起きにくいというメリットがある。上の作例でも、筆者の腕が良くないということもあるが、ADP1で撮影したものは手ぶれが起きてしまっている。

カメラ関係のアプリケーションの充実度はiPhone向けのApp storeに一日の長があり、それもiPhoneのカメラの画素数の低さをあまり気にしないで済む理由になっているように思う。これについては、今後有料アプリも含めてAndroid Marketがどの程度充実してくるかにかかっている。ただ、iPhoneと違ってAndroidは様々なスペックのハードが今後出てくることが予想され、そうなると、千差万別の端末に、異なる性能・特性をもったカメラが搭載されるということになる。そのときに、汎用のカメラアプリケーションがどのように成り立つのか、あるいは個別の端末のカメラ毎にことなるアプリが必要となるのか、端末のバリエーションが限られるiPhoneとの比較で、どちらがユーザーにとって好ましいものとなるのか、注目していきたい。


●コピー&ペースト

iPhoneになくてADP1にあるものの筆頭機能が、このコピーペーストの機能だろう。ただしADP1でも、コピーが可能なのは文字入力領域にあるテキストに限られており、たとえばこのブログの本文をwebページからコピーする、といったことは出来ない。とはいえ、コピーペーストが可能であることは、やはり便利である。メニューなど日本語に非対応なADP1で、simejiなどのソフトを使って日本語が入力できるのも、このコピーペーストの機能がサポートされているからだ。トラックポイントボタンを長押しすることで簡単にペーストできるので、日本語化されたAndroidが出てきても、その利便性は変わらない。iPhoneがソフトウェアのアップデートによってコピーペーストに対応しないうちは、この機能はAndroid機のiPhoneに対する有力なアドバンテージのひとつだろう。


●ボタン

iPhoneの物理的なボタンが4つ*2しかないのと比べて、ADP1にはキーボードのキーを除いても8つのハードウェアボタンがある*3

ADP1のメニューボタンは、たとえばブラウザを利用する場合にPCの使い勝手と異なるので、慣れるまではちょっと違和感があるが、なれると、この8つのボタンで(文字入力以外の)ほとんどの操作が可能だ。特にトラックポイントボタンを使った操作は、思いのほか便利だ。カメラの項でも指摘したとおり、冬など手袋をしたまま操作できることもiPhoneにはない便利さだし、また「戻る」ボタンで一つ前の操作に戻ることができるのは、使用するアプリケーションを問わずに統一されているので、これも便利なところ。

ただ、使い込むうちには、こうした物理的な可動部分が故障しやすい部分となってくるだろうから、その点は便利さとトレードオフの関係になる。

また、電源のオンオフやスリープなどの際に、ADP1のボタンの反応がちょっと過敏で、意図しない操作結果になってしまうことが多々あったのは、気になるところだった。


まだ比較の視点は多数あるので、続きは稿を改めて書きたい。

*1:重量や大きさといったスペックなど、すでに客観的データとして公表されているものの比較については他に譲り、主に使用感などたぶんに主観的な比較なので、あくまで筆者の個人的な経験と感想であることをお断りしておく。

*2:電源/スリープ、消音、音量、ホームの各ボタン

*3:液晶の脇にあるメニュー、通話、ホーム、トラックポイント、戻る、電源、の6ボタンと、本体脇にあるシャッター、音量の2つ

Android Dev Phone1 を試用する(2)アメリカで使ってみた

前回の稿で書いたように、Android Dev Phone1(以下ADP1)に一通りの設定をし、使い方もある程度分かったので、ちょうどアメリカに行く機会があった時に現地のSIMカードを購入し、実際にAndroid携帯電話としてその機能をフルに試してみることにした。

旅行者としては、日本の携帯電話をローミングで使うよりも現地のSIMを購入して使った方が安いし、現地のSIMはプリペイドのものを入手して残額が足りなくなるたびにチャージして使う方が、契約も簡単だし使い勝手がよい。日本だと、日本人(日本在住者)でプリペイドの携帯電話を使っている人は少ないしキャリアが提供するプリペイドサービスも限定的だが、海外の場合、特に若年層や中程度以下の所得者層だと、在住者でもプリペイドの契約が広く利用されている国は少なくないようだ。クレジットカードがなくても、スーパーなどでチャージのカードを購入するだけで手持ちの現金に応じた利用が可能になるし、携帯電話にかける費用を管理しやすいところも、広く利用される理由になっているらしい。

今回は、アメリカにあるいくつかの携帯電話会社のうち、at&tプリペイドSIMカードを選択した。アメリカで、このADP1の商用機版であるG1を扱っているのはT‐mobileUSAなので、本当はそこを選択すれば、データ通信を使うための設定に必要なAPN情報も最初からADP1本体に登録されているので簡単である。しかし、webで調べたところ、どうもT‐mobileUSAのプリペイドSIMカードではデータ通信が出来ないらしく、通話だけではADP1を試用する意味がほとんどないので、プリペイドでもデータ通信可能という情報があったat&tのものを選んだ。このプリペイドサービスは”go phone"という名称でサービスされており、サイトで詳細が確認できる。*1

このgo phone、私が利用した2009年1月現在で、データ通信の料金は従量制で1KB=1セント、"MEdia Net Package"という割引サービスを使うと、4.99ドルの前払いで1MBまで(1KBあたり約0.5セント)、9.99ドルの前払いで5MBまで(1KBあたり約0.2セント)と、比較的安い料金で利用できた。データ通信を使うのであればMEdia Net Packageを購入するとよいだろう。


at&tショップの例(SIMを購入した店舗とは別の店)

SIMの購入は簡単で、at&tショップの店頭に行って、氏名と暗証番号を店員に伝えるだけだった。初回のチャージ最低額である50ドルと、MEdia Net Package 5MBの9.99ドルを購入。通話のオプションで、一律1分25セントのシンプルレートか、通話した日には1日1ドル課金されるが1分10セントかつat&tの携帯同士であれば無料になるプランかをえらぶ。今回は前者を選んだ。これで90日間はチャージしなくても同じ番号で使いつづけられる。*2


at&t go phoneのSIMカード

ただポンとSIMだけを渡されるのだろうと思っていたのだが、私を担当してくれたショップスタッフは、端末を設定するから貸せ、と言ってきたので、お願いしてみることにした。長い時間をかけてあれこれトライしてくれたが、結局通話は出来るもののデータ通信が出来るようにはならなかった。”この機種のことはわらかないよ。”と言っていたが、当然といえば当然のことだろう。最後は、YoutubeにあがっていたG1のアクティベーションの動画まで参考にして試してくれたものの、それも失敗。

仕方なくショップをあとにしたが、ひょっとして、と思い、あらかじめ日本出発前にiPhoneスクリーンショットを撮っておいたat&tのAPNの情報に”大文字小文字に注意”と書いてあることを確認、パスワードを大文字で入れたところ、無事にデータ通信も使えるようになった。

そのようなわけで、SIMを購入してAPNを正しく設定するまでは若干面倒があるかもしれないが*3、そこをクリアすれば非常に快適に使える。

今回のアメリカ行きでは、いくつかの展示会を見て歩くことが目的のひとつだったが、ADP1で使えるTwitterクライアントソフトをあらかじめ入れておいたので、リアルタイムの情報もTwitterでフォローし、またCESではスマートフォン向けに展示会場ガイドのソフトが提供されていたのでそれをインストールして広い会場のお目当ての出展社を探したり、GPSとMapを使って現在地と行き先までの経路を確認したりなど、試用のつもりであったが、ADP1をきわめて実用的に使うことが出来た。

通話だけでなくデータ通信を使った場合でも、利用するごとに利用料金の通知が来てディスプレイに表示される。MEdia Net Packageを使いきらないうちは利用料はゼロと通知されるから、料金が表示されはじめたらMEdia Net Packageを追加購入*4すればよいので、これも便利なサービスだと思った。

メールをはじめとしたテキスト中心のデータ通信であれば、思ったよりも利用料金はかからないという印象だ。今回約1週間の滞在で、MEdia Net Packageの5MBを2回、1MBを1回購入、通話に使ったのはおそらく10ドルにも満たない。MEdia Net Packageを使いきったあと、最後に20ドル弱の基本のチャージが残ったので、これでGoogleストリートビューを試した。

ADP1には、iPhoneにはないハードの機能としてコンパスが搭載されており、これをストリートビューと連動させて使うことが出来る。GPSで自分の現在地を確かめたあと、ストリートビューをコンパスモードで使うと、自分の前の前にある風景とADP1の画面の中にある映像がシンクロするという、ちょっと不思議な体験をすることが出来る。体の向きを変えれば、ADP1のコンパスが反応して画面の風景も同じように変わる。

この機能をうまく活用できれば、かなり方向音痴の人でも、自分が次にどちらに歩いていけばよいか判断することが出来るだろう。また、コンパスのあるなしにかかわらず、また方向音痴かどうかにもよらず、ストリートビューによって行き先のビルの色や形などを事前に確認することが出来るのは、不慣れな旅行者が街歩きをするうえで、どれほど役に立つかを、痛切に感じた。

日本の世論(マスコミが作り出す世論)では、ストリートビューをプライバシー侵害の問題とからめて一方的に批判することが”流行っている”ようだが、こうした使い方があることを知ってもなお、批判するだけに終始するのだろうか。そもそも、自分の見知った場所を見ることは、ストリートビューの発案者が想定するであろう使い方のごく限定的な局面、むしろどちらかというと、想定していないに近い使い方ではないだろうかと思う。知らない場所を予め知っておける、あるいはその場で知ることができることにこそストリートビューの真価があるのであって、そこに洗濯物が干してあるかどうかなど、その意味で”予め想定された”利用者にとっては、どうでもよいことだし、表札が写って困るなら、そもそもどうして表札を掲げるのかも理解できない。

もちろん、言われるようなプライバシーの問題があることを否定はしないが、表層的・一方的な判断をするだけではなく、ストリートビューが実現したプラスの側面も加味した上で是非が議論されることを切望したい。

余談が長くなった。

ストリートビューを試してはじめてほどなく、あっという間にチャージ残額がゼロになった。ストリートビューのような重たいコンテンツは、WiFiが使える場所で利用するのが賢い使い方ということだろう。ただ、プリペイドの良さで、払ってある以上の金額を使う気遣いが要らないこと、簡単に再チャージ出来ることは、旅行者として考えると非常に使い勝手がよい。go phoneのアカウントはwebで簡単に確認・管理できて、その点でもポイントが高い。

メールの送受信やちょっとしたwebアクセス・地図の確認といった用途であれば、それほど値段を気にせずに利用できるし、旅先でのちょっとした調べものに使うには非常に便利だ。下手な紙の旅行ガイドや地図を持ち歩くよりも、ずっとこちらの方が役にたつ。情報が最新かつ多様だし、その場の状況に応じて必要な情報を探せばよいので予定が変更になっても慌てない。むしろ、予定を意図的にずらしてハプニングを楽しもうという気になってくるかもしれない。街角でガイドブックや地図を広げて立ち止まっていれば旅行者と一目瞭然で犯罪のターゲットになる可能性も高いけれど、スマートフォンならそういう心配もない(ただし、スマートフォン自体を狙ったターゲットにはされるかもしれないが)。

稿を改めてiPhoneとの比較でまとめて書こうと思っているが、旅行中に使うということを考えた場合、現状のADP1は、メモ代わりに画面キャプチャを保存しておけないので不便だし、Mapのブックマークがないことも不便だ。こうした点は、オープンソースの強みを活かしてどんどん改善されていくことを期待したいところである。

ADP1の試用がもともとの目的だったのだが、次からの海外旅行では、この端末を現地のSIMカードで使うことを考えることだろう。SIMフリーiPhoneがあればそちらを使うかもしれないが、手元のものはSoftBankのSIMしか使えないので、当面はADP1が”旅行ガイド”端末として活躍することになりそうだ。

このアメリカでの試用経験を踏まえ、次の稿ではiPhoneとADP1(Android)の違いについて考えたこと、感じたことをまとめてみたい。

*1:全米主要都市はほとんどカバーされているが、念のため事前にサービスエリアを確認しておくことをおすすめしたい。余談だが、サービスエリア地図によればハワイ諸島もかなりカバーされているようなので、ハワイ好きな方にも便利に使えるだろう。

*2:50ドルの場合チャージの有効期限は90日だが、15ドルの30日から100ドルの1年まで、チャージ額によって同じ番号を使いつづけられる有効期限が違う。再チャージすれば有効期限が伸び、残額分も期限切れにならずに持ち越せる。また、再チャージが一定額に達するごとにボーナス分の通話代金が上乗せしてチャージされる仕組みもあり、プリペイドユーザーがat&tを使い続けるようなインセンティブも考えられている。

*3:ネットなどにあるAPNの情報は必ずしも最新・正確ではなかったりするので、事前に調べてもっとも確度が高そうな設定情報を入手しておくと現地での時間を無駄にしない。

*4:webで購入しても良いが、ややまどろっこしいものの携帯から611番にダイヤルして完全自動の音声応答サービスで購入すれば、歩きながらでも即時購入できるので便利だった。